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60.最高の舞台。





トンファーを構え近付こうとするその時に、
胃の中が煮え繰り返るようなそんなムカつき感。
意識してないのに何故か身体から溢れ出す脂汗。心なしか、目の前も霞んで見える。




「ん――?汗がふきだしていますが。」



それに気が付いている骸は吊り上がる口角を隠そうともせずに言う。
それがまたカンに障る。



「…黙れ。」


「せっかく心配してあげてるのに」


「ッ――」




この胃がムカつく感覚………つい最近も味わった。確か赤ん坊達と一緒に群れていたあのヤブ医者に変な病気をかけられた時と同じ感覚だ。


しかし、この室内にアレがあるはずがない…。
額に浮かぶ脂汗に苛立ちながらも崩れそうになる足元を踏ん張り立っていた。




「海外から取り寄せてみたんです。クフフフ…本当に苦手なんですね――――――桜。」



そんな雲雀に追い撃ちをかけるかの様に骸がリモコンのボタンを押す。
それと同時に天井だけがライトアップされたみたいに光が照らされる。



一本の桜木が花びらを散らつかせていた…。



桜を直視してしまった雲雀は膝の力が抜け完璧に膝を地に着かせてしまう。プライドが高い彼にとって敵の前で膝をつく、それだけでも屈辱的だった。


見開いていた目を細め骸を睨み付ける。
膝をつく雲雀に骸はクスクスと笑いソファーから立ち上がった。




「おやおや…もう膝をついてしまったんですか?舞台はこれからだとゆうのに…。」


「…っな、に……」



眩む目を骸に向けながら雲雀なんとか脚に集中し立ち上がろうとする。
しかしそれは部屋に響いた扉を開ける音により目線がそちらに向く。



その扉を開けた影を見て桜木を見た時より雲雀の目は困惑気に見開かれる。








「この美しい舞台を飾るのは葵なんですから…もう少し付き合ってもらわなければ……ねぇ?」




扉から現れたのは……
一昨日の夕方から姿を消し、目の前の男に拉致られたと思われていた少女。
そして、僕が捜していた………



『……。』


「…葵っ……」



隣の部屋にいたのか扉を開けて六道骸に寄り添うようにして立つ葵。僕が触れるはずのその細い肩に奴の手が置かれる。




「ッ…葵…、」



何故、自分の元に駆けて来ない?何故僕の側にいなく、奴の側にいる。



ぐっと顔を上げて葵の顔を伺うと彼女の瞳に光が無く表情が無いことに気が付く。







あの葵の輝く瞳と表情が…無い?
まるで心を無くした器がそこにあるみたいに、葵はいた。





『………。』


「葵っ…なに、してるの…」


『……。』


「帰る…よ…」




吐き気を覚えながらなんとか元の彼女に戻ってもらおうと話を掛ける。


そのために、僕はここに来たんだから。
君を迎えに来るために…。



表情を一切変えない葵に雲雀は内心で舌打ちをする。
そして同時に疑問を抱いた。


あんなに兄に突き放されて絶望の淵にいた葵が臆することなく今は彼の隣にいる……まさか六道骸に何か暗示らしきものを掛けられたのか?





「クフフ…無駄ですよ雲雀恭弥。」


「!」


「君の声は葵にもう届くことはない。」


「……。」



葵に馴れ馴れしく触れ肩を抱く骸は清々しい顔でそれを語る。
雲雀の内心で抱いていた疑問は六道骸の次の言葉によりその答えがでた。








「葵は僕の力により心を奥底に沈めました。もう僕以外の声が届くことはありません。」




無論、君の声もね。
楽しげに言う目の前の男に胸の苛つきは納まらない。
変な病気をかけられたせいで胃の苛立ち、そして六道骸とゆう男のやり方に胸の苛立ちは最高な位置にある。



そして、そんな甘い罠に架かり何もすることが出来なく敵の前に膝まづく……並盛の秩序である、この僕が。



ギリッと強く歯を咬み締める。





「んー…直接僕が手を架けるのも良いですが、やはりここは最高の舞台にするために彼女に任せましょうか………良いですね?……葵。」



「っ!?」




骸の言葉に静かに頷いてみせた葵は腰の後ろに手を廻し、彼女の武器である折り畳まれた三節槍を取り出す。
そしてそのまま覚束ない足取りで僕の前に立つ。


目線だけを上にやればやはり彼女の表情は無い。何も感じず、そこに立っているだけ。
眉一つ動かしていない。






「楽しいショーの始まりだ。」




葵は静かに三節槍を組み立て、刃を光らせながら僕に近付いた。




氷のように冷めた瞳で僕を見下ろす君は、いつも僕に擦り寄り頬を赤らめさせていた君じゃない。





そして刃は何の躊躇いもなく振り下ろされた。







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(これは君を守れなかった報いか…)


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