TITLE


58.一筋の涙。





「…どうやら、来たようですね。」



葵の肩を抱きソファーに腰を掛けている骸は小さく咽で笑う。



ランキングフゥ太も隣の部屋にやり彼の弱点となる"あれ"の準備も整った。



後はここで彼を待つのみ。




「クフフ……葵、お前がいる世界をマフィアのいない、美しい世界にしましょう。」



僕の胸に頭を預けるようにして寄せている葵の頭にそっと口付けた。
























――――――――
―――――




―ドカッバキィッ



「ぐっ…!!」


「もう一度聞くよ……葵は何処?」



目の前で倒れている黒曜生の掌をガッと踏み潰す。
アジトの情報を掴んだ雲雀は一人黒曜ランドに訪れていた。
ここに葵を連れ出した主犯がいる。



ここに、葵がいる…。






「…ここに連れて来られた女の子。僕は気が長いい方じゃない…早く答えた方が賢明だよ。」


「くぅ……あ、三…階に……」



顔を真っ青にさせながら答えた彼にそう、と口を開かせて。




「じゃあもう君に用はない……死になよ。」



そう一言言って、トンファーを振りかざした。
























『…………。』



あのあと葵姉は骸さんがいる部屋の隣にある、僕がいる部屋に入れさせられた。

フゥ太はちらっと隣にいる葵を見遣る。



やはりその瞳は闇に染まっており何も映していない…。
ただずっと何もない空間を見ているだけ。
多分、骸さんの力によって心を表に出ないよう奥底に沈められちゃったんだ。



僕は…まだ骸さんが力を使わない限り、自我が保っていられる。
だから考えることも、自分の意思で動くことも出来る……けど、葵姉は…。




「……。」


『………。』




骸さんは愛しそうに葵姉を見ていた。
ならなんで…葵姉を悲しませることをするのだろう?



僕は知ってる…。
彼女は好きでこの場にいるんじゃなくて、骸さんがこの計画を成功させるために葵姉は無理矢理ここに居させられてるんだって事を。



じゃなきゃあの時…






「さて…どうやら"彼"が来たようですね。」



葵姉を胸に抱き寄せたまま骸さんは割れている窓を見つめる。
僕は骸さんの言う"彼"が分からないでいるとそれに答えるように骸さんは口を開き。









「彼……雲雀恭弥が。」


『――――っ――』




骸さんは知らない。
胸に顔を埋めていた葵姉の表情を。
僕は二人より身長が低いから見えたんだ。




骸さんの胸に顔を埋めていた葵姉が、












『きょ……ゃ………く…ん……』







そう言って、雲った瞳から一筋の涙を流したのを……


骸さんは、知らない。




無表情だったけど、あんなに、苦しそうに涙を流していた葵姉…。
僕はその涙を見てとても心が締め付けられた。




助けたい…葵姉を…!!
でも僕には何も出来ない……







『………。』


「はじめましてだね葵姉。僕はフゥ太。ランキング・フゥ太って呼ばれてるんだよ。」


『………。』


「葵姉はツナ兄と同じ学校に通ってるんでしょ?ツナ兄から聞いたことあるんだ〜!」


『………。』


「………葵姉…」



うんとも違うとも言わない。瞬きもせずただ人形のように椅子に座っている。
フゥ太は葵の事を知っていた。
人間不信ランキングで一位だった名前で知っていたけど、以前ツナ兄から彼女の話を聞かされたことがあるから。
会ってみたいと思ってた…それがまさか……こんな形で会うなんて…。




僕は俯かせていた顔を上げて目の前に座っている葵姉の冷たくなった手にそっと触れる。
びくっと身体が一瞬だけ揺れたがやはり表情は崩れず、そのまま。
僕は触れた手を葵姉の手の平に絡ませた。





「っ……辛い、ねッ…」


『……。』


「辛いよねっ……葵姉…ッ!」




泣かないじゃなくて泣けない彼女の心の変わりに僕は涙を流した。
ツナ兄ッ………ごめんね。
僕は、ボンゴレを裏切る形になっちゃったけど……葵姉だけは、助けてあげて…!


今から来る並盛最強の人は…骸さんが用意した"アレ"で多分負けてしまうッ。
だから、最後の綱は…



ツナ兄だけなんだ!








次→


(葵姉…大丈夫だよ…絶対にツナ兄と葵姉の大切な人が助けに来てくれるから!)



.


prev | next


back main top 


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -