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57.曇った瞳





『………。』



古びたソファーに座りぼんやりと何もない空間を見ている葵の姿。
その瞳に光は無く、人形のようにそこに座っていた。
その近くで立っていた千種と犬は違った意味で変わってしまった彼女の姿に心配気に見つめる。



何故彼女があぁなったのか。千種は眼鏡を中指で持ち上げる。
それは昨日の夕方に遡り、骸様は六道の力を使い葵の精神に入り脳と身体を支配した。
葵にはマインドコントロールはしなくても操れるらしい。
理由は簡単なもので、同じ力を持つ者同士もそうだが何よりの理由は二人は双子だから。
同じ血を持ち自分の片割れの存在である葵にはマインドは効かない。


骸様は六道の力を使い、葵の意識を深い場所に眠らせてしまった。
今目の前にいる葵は、俺達が知る葵ではなく、ただ操られた人形になってしまっている。



「っ…本当に、これでいーんれすかね、骸さん。」



色を無くした葵を見ながら犬は自分自身に言っているのか、または隣にいる千種に言っているかのように問う。




「……骸様が、決めた事だよ犬。」



そんな犬の心情を察した千種も眉間に皺を寄せながら言った。骸様にも考えがあっての事。それは犬自身にも分かっているはず。





なんせ、



骸様が何故葵を裏切ったのかは…………自分と犬はその意味を、聞いた事があるのだから。











「葵…」


『………。』


「骸様…」




何処かに出掛けていたのか外に出ていた骸が帰って来ていた。
部屋に入った骸は真っ直ぐに葵に視線を向ける。




『……。』


「クフフ…いい子で待っていましたか?葵。」


『(こくり)』


「そうですか。さぁ、おいで…」



腕を広げ葵を待つ。葵はソファーに腰を落ち着かせていたのを持ち上げてゆったりとした足取りで骸に近付く。


それを骸は優しく受け入れる。
葵は骸の胸に顔を埋め両腕を彼の背中に廻す。




『……。』


「骸様…」



不安げに骸と葵を見遣る犬。



「大丈夫ですよ犬。」


「ッ……!」



葵を抱きしめたまま後ろにいる犬にそう言い骸は葵の肩に手を置き振り返る。




「葵も分かってくれます。そのためにもこの計画は絶対に成功しなければならない……分かりますね?犬、千種。」


「…はい。」


「…わかってるれす。」



犬に耳があれば横にペタンとなっているのだろう。彼は葵に懐いていましたからね。
千種も表情には出していないが雰囲気がいつもと違うのは明らか…。




「では頼みましたよ。」


二人は頷くと後ろ脚を引かれる思いで黒曜ランドを後にした。
ボンゴレファミリーをあぶり出す為に。



犬と千種が出て行ったのを確認すると骸は小さく溜め息を零す。




葵…




ちらりと自分の腕の中にいる愛しい妹を見遣る。

数時間前…二人がいない間に葵の精神世界に入っていた骸は自分達が居なかった過去の間の映像を見ていた。




その過去の映像を思い出したのか眉間に皺を寄せる骸。




「葵…」



自分の胸に顔を埋めている葵の白い頬に手を伸ばし優しく上に向かせた。虚ろな瞳で骸を見ている葵。



長い前髪で隠れてしまった右目。
その髪をさらりと横へずらし包帯越しから右目をなぞる。





「僕が居ない間に…そんな事があったんですね。」





右目の事、そして悲しくも残虐な世界で引き起こし、身体に染み付いた人間不信…。



だから、再会した時、彼女に違和感を感じたのか。



腹わたが煮えくり返るような不愉快な酷い映像だった。


そして何より、骸を不快感にさせた映像がある。






それは"雲雀恭弥"とゆう人物が出てきた映像だ。
彼は葵の恋人とゆう立場にいる存在。
日本まで逃げてきた彼女をマフィアの手から救い、常に自分の側に置いていたらしい。



葵の瞳に映り、葵が笑顔を向けていた相手……。





「葵、君は僕達といればいい…。」




そう、全てはお前の為に……






「骸様…」


「おや、帰って来ましたか。」




扉側には小さい少年を連れて戻ってきた千種と犬の姿があった。
その男の子は自分の身長の半分はある大きな本を抱えて立っている。




「クフフ…また抜け出したんですか……フゥ太。」


「……ッ…。」




本に向けていた視線をそっと骸に変えるとフゥ太と呼ばれた男の子は大きな目を更に見開く。




「…!」


「あぁ、この子ですか?彼女は僕の妹ですよ…。」




フゥ太は呆然と葵を見ていた。



あのお姉ちゃん…ボクと同じだ…。


六道骸に、操られてるッ…!!



光のない曇った葵の目を見てフゥ太は自分と同じ空間にいる葵をじっと見る。


でも、骸さんは、彼女を自分の妹だと言った…。なんで操る形で彼は彼女を側におくのだろう、と不信を抱く。
骸さんの隣にいる葵さんはなんだか…












とても、苦しそうだった。






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(さて…どうやら"彼"が来たようですね。)

((彼?))



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