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53.もう昔には戻れない。




千種に連れられ部屋を出た葵は前を歩く彼を見遣る。





「………。」


『……。』



沈黙の中。
廃墟の廊下を歩く二人の姿。
靴音だけが響く廊下に荒々しい足音が響いた。



『!』


だんだん、こちらに近付いてくる。



『っ…(怖いッ…)』



その荒々しい足音に怖くなって反射的に千種の背中にくっつく。





「柿ピィィイイ―――――――ッ!!!!!!!」



『!!(びくぅっ)』




怒声を含んだ叫びに肩が飛び上がる。
恐る恐る千種の背中から顔を覗かせると。




『!』


「犬……うるさい。」


「うっせぇびょん!!俺だけ置いていきらがってーー!!!」



床に脚を叩き付け踏むのは……昔より逞しくなった犬。




『…犬…ちゃん…?』


「!?」



地丹場を踏んでいた犬はハッとした顔をして千種の後ろにいる葵に目を向けた。
犬の目に彼女の姿が映ると目を大きく見開き、



「!葵さん!!」



眉間に寄せていた犬の皺は一瞬にして消え葵を見る。
しかしすぐにまた眉間に皺を寄せて千種を睨んだ。



「柿ピーー!ずるいれすよ!先に葵さんに会ってたびょんッ!?」


「……はぁ…。」


『………。』



昔と変わらない、光景。

なのに、私達の心は……




変わってしまった。






「犬…骸様が…葵を呼んでいる。」


「!」



千種の言葉に苦虫を潰したような顔をする犬。
そこで葵は自分がしている行動を思い出して慌てて千種の背中から離れる。




『っ……、…。』




その様子を見た二人は昔を思い出しながら変わらないようで変わってしまった彼女の行動に瞼を伏せた。


彼女を変えてしまったのは、自分達だとゆうことを理解している二人は何も言わない。





最後に聞いた彼女の悲しく奏でた叫びは、今でも彼等の心に刻まれているから……











― ど……して…いや、



いやよ……おにーちゃ……犬ちゃん…ちーく…ん




いや、いやだっ…
置いていかないでッ!!



















いやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!!!!









別れ際に見た葵は、届かないと分かっていながらも涙を流して自分達に手を伸ばしていた。




戻って握り返してくれると、






そう…信じて。





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