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30.君のためなら何度だって。





小さく頷いた葵を見て小さく息を着くとビクッと葵の身体が反応する。




「ねぇ葵。君はいつも誰かに負けることを嫌っていた。どうしてそんな無意味な事をするのか僕には分からないけど、君は負けたら勝った相手の元へ行かなければならないと考えている。」


『……。』




何時だったか、僕の側にいるようになってから彼女は極端に負ける事を嫌っていた。
前に聞いてみた所、昔からの習性みたいなものだと彼女は言った。



そうなると葵が負けたくないのは僕の側から離れたくない。ということになる。



…それは嬉しいけど、













「……そんなに僕は頼りない?」



『!』




今まで膝に埋めていた顔がガバッと勢い良く上がった。
目を見れば悲しげに揺れていて『そんなことない』と語っている。
それを見て小さく咽で笑い、包帯が巻いてある方の頬に左手を置き、右手でガーゼを使い顔に付いている赤い血を優しく拭っていく。
さっきとは違い今度は大人しく治療を受け入れている。




「葵、僕は君を手放す気はこれっぽっちもないよ。」


『…?』


「君は負けても、僕から離れる必要はない。」


『………!…うん。』





この言葉の中に含まれている意味に気付いて葵は唇を噛み締めて小さく、首を縦に振る。





「君が負けても、君を負かした奴を僕が咬み殺す。」


『……っう、ん…。』



必死に涙を零さないように唇を噛み締めている葵の唇を止めさせる為に親指を滑らせる。




「君が負けても僕が何度でも君を向かいに行く。」


『………う…ん…』











「だから……怖がらなくていいんだ。」



『………ッ』




ずっと、相槌をしていて我慢していた涙が葵の目からスーッと静かに流れた。






「馬鹿だね。」


『ご、め……なさ…』


「治療。草壁はもう帰らせていないから僕がするよ?」




コクリ、と首を振り返事を返した葵の頭の上に手を置き、「いい子だね。」という。


机の上に草壁が使う筈だった救急箱が置かれていたからそれを手に取り、彼女の手当を始めた。





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