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29.治療を受けない彼女





草食動物達がいる屋上を出て足は真っすぐ彼女がいる応接室へと急ぐ。


応接室に続く廊下を歩いていると前方から歩いて来た人物に気が付き止まる。




「あ!委員長!!お探ししました!!!」


「?」




いつもより随分と慌てた様子でこちらに駆け足で来た風紀副委員長の草壁に首を傾げる。




「葵の手当はすんだのかい?」


「そ、その事でお話が…!」


「何?まさか傷が残るような事をしたんじゃないだろうね。」


ギンッと雲雀に睨まれた草壁は背筋を伸ばし顔が青ざめていた。



「いえ!実は葵さんが………治療を受けてくれないのです。」


「!?……それ、どうゆうこと?」


「委員長が葵さんを自分に預けた後の事です……。」











「取りあえずソファーに…!」



委員長の背中を見送り、傷だらけの葵さんの身体を気遣いながらソファーに横たえさせる。


「酷い傷だ…。」




最初委員長に抱えられていた葵さんを見た時心臓が止まるかと思った。



いや、寧ろ葵さんを傷付けた奴は同情するぐらい悲惨な目に合うだろう。
委員長と葵さんは恋人で、委員長は葵さんを溺愛している。
委員長にとって葵さんは光で大切な存在だ。



そんな彼女を傷付けた奴を委員長が見逃す筈がない!
出来れば俺も敵を討ちたい!葵さんをここまで傷付けた奴が、許せん!!
しかしそれは俺のする事ではない。委員長がそれを許さない。
自分は、この小さな彼女に何も出来ないのだ。




「すまない……俺は、何もしてやる事が出来ない!!」



ソファーで寝ている葵を見て拳を強く握り締めた。




すると、強く握られた拳に柔らかな手が乗せられる。



「!!葵さん!気が付いたんですか!」



その手とは他でもない、葵だった。




『そんな……こと…な…い…くさ……べ…く、ん。』


「!」


『私………草壁…くんに…沢山…お世話になっ……てるよ?私も…恭弥君…も。』




小さな笑みで笑う彼女。


「ッ…ありがとう。」



それは二人に仕えている自分には嬉しい言葉だった。
俺は委員長や葵さんの役に立てているのだろうか―――?と。




目が覚めた葵さんは目だけで周りを見渡す。




『……私…なんで応接室に?』


「覚えていないんですか?委員長が運んで来てくれたんです。」


『えっ――?…………そ、っか……あれ、夢じゃなかったんだ…。』




そう言って何処か切なげな目をしていた。
気になったがそれより傷の手当が先だ!




「さ、傷の手当をするので……」


『!い、いぃ…』


「?何を言ってるんですか、傷の手当をしなければ…。」




頑として傷の手当を拒む彼女。
どうしたとゆうのだ?
手当をしなければ俺が委員長に咬み殺される!!



「葵さ……!」


『いぃから……本当に、今は、いいの…』


はっとして葵さんを見るとカタカタと震えて顔は青白い…。








「葵さ…」




『お願い草壁君……今は、一人にして下さいッ………』











「と、ゆう事なんです。」


「……分かった。葵の所には僕が行くから君はもう帰っていいよ。」




草壁から一通りの話を聞いた後、彼を先に帰して僕は今だ手当を受けていないとゆう彼女の元へ向かう。






応接室前に着き扉を開けるとソファーの隅で体育座りをして膝に顔を埋めている葵の姿があった。




「葵?」


『……!!』



膝に埋めていた顔が持ち上がる。
泣いているのかと思ったが泣いてはいないようだった。
だけど泣きそうな顔、はしている。




「何で手当を受けなかったの?」



葵の前で雲雀は床に膝を着き、責めるのではなくまるで小さい子供に接するかのように優しく言う。
しかし口を閉ざしたまま葵は何も言わない。
暗い顔をした葵に向けてゆっくり口を開かせる。
それは確実に彼女を心を突くだろう。


















「………………彼…獄寺隼人に負けたんだろ?」




『―――ッ』



葵が息を呑むのが肌を伝って感じた。





そして小さく





彼女は頷いた。




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