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TITLE 9.置いていかないで… 「着替え終わった?」 部屋の扉を開けるとベットの隅で膝と布団を抱えて座っている少女。 床を見れば綺麗に折り畳まれたワンピースに着替え用に渡した黒のズボン。 着替えなかったのか? ブラウスは着ているのに…。と少女を見ていると袖が長くて手が見えない事に気が付く。 ……サイズが合わなかったからか…。 「お腹…空いてるでしょ。」 作ってきたお粥を机の上に置く。 「何も食べていなかったから軽い物にしたよ。胃が驚くからね。」 『………』 「じゃあ僕は行くから。それ、ちゃんと食べなよ。」 床に置いてある服を掴みまた部屋を出た。 だってあそこに僕がいれば彼女は決して口にしないだろう。 警戒心の強い子だ。 多分、そう簡単には食べ物を口にしない。 「後で様子を見に行くか…。」 洗濯機に服を放り込み居間でお茶を飲む。 ――――――― ――――― 私が彼に拾われ、一週間が過ぎた。 「………また食べてないの?」 この一週間、彼は毎日のようにご飯を持ってこの部屋に訪れてくる。 だけど私はそれらの食事には一切口にしなかった。毒が入っているかもしれない。もしかしたら情報を吐かせるための特殊な薬が盛られてるかもしれない。 そんな考えばかりが頭を巡る。ずっとそんな世界にいた私。 怖い。世界も。マフィアも。人も。 この優しく接する男の子も…。 彼は減っていないお粥を見て溜め息を零す。 「毒なんか入ってないって何回言えば気が済むの?」 『………。』 そんなの分からない。 だって私は、そうゆう世界で育ってきたんだもの。 あそこはまさに毒を身体の中に生み込まれる場所。そのせいで沢山の子供が命を落としこの世を去っていった。 私はそれを…近くで見てきた。知っている子達の命の光が消え行く姿を……あの、断末魔を何度も、何度も聞いてきた。 どんなに耳を塞いでも……苦しむ叫ぶ声が……。 それにやはり口を割る薬が入っていたとしたらそれこそ終わりだ。 絶対に他のマフィアには口にしてはいけない情報だから。 なのに、そう思っているのに……どうして私はここにいるの?どうして…逃げようとしないの? 膝に顔を埋める。 そんな姿をずっと見ていた雲雀はふぅと溜息を零した。 「…そんなに、死にたい?」 『!!………』 びくっと肩が揺れ動揺する。 ―死にたい?― 死…… 私は……死にたいの? 「ハァ……死にたいならそうすればいい。」 『………』 「死にたい奴を助けたりした僕が馬鹿だった…」 背を向けてこの部屋から出ようとする男の子の後ろ姿。 『ッ!!』 「Addio…」 その後ろ姿は…最後に見た……置いていかれた時に見た、 兄の後ろ姿と重なった。 また置いて行かれる? 私が悪い子だから? 私がいらないから? 私が嫌いだから? 私が…弱いから? 『……い…』 隅に寄せていた身体をベッドの中心まで来させる。 私の小さな声に気が付きこちらを振り向いた男の子。 「……!」 振り向きこちらを見た途端に目を見開く男の子。私を見た途端に驚いた顔をした彼を不思議に思っているとポタッと何かが頬を伝って布団に落ちる。 それが涙だと認識するには数秒かかった。 一度流れた涙は止まらない。 『あッ………』 出した声は思ったよりか細く、震えていた。 …怖かった… 本当は心の奥で助けてくれた彼を信じていた。 分かっていた。 この一週間、彼は本気で私を心配して介抱してくれていたから。 マフィアじゃないし、敵じゃないって…分かっていたの。 だけど…それでも怖かった。 一度傷つき壊れた心は簡単には元に戻らない。 でも、それ以上に…… 『置い…て……かな…い……で…。』 彼に、置いていかれる事が怖かった…。 また捨てられるのが怖かった。傷つきたくなかったから。 もう、あんな思いはしたくないよ…… ボロボロと流れる涙。 布団のシーツをきつく握り締めて顔を下に俯かせる。 『……置いて……いか…な…いで…ッ』 同じことを何度も言う。まるで壊れた機械のように繰り返す。 お願い、私を嫌わないで… 私、強くなるから… だから、 『……置い……てい…か…ない………で…』 「ッ!!」 ―ぐいっ 『っ!!』 シーツを握り締めていた腕を捕まれて力強く前に引っ張られる。 ベットから落ちるっと来る痛みに目を閉じる。 が、 『……?』 来るはずの痛みは無く、替わりに来たのは柔らかい衝動。 見える左目で捕らえた白い世界。 背中と腰に何かが廻されて伝わる肌で感じた暖かい温もり。 「ごめん…」 次→ (優しい…その声に…私は安心した。) |