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TITLE 35.恋を知った妖 「………頬の傷は癒えたようだね」 『…え?あ、うん』 するりと傷があった場所をひと撫でし、頬から手を離す。肌を伝って杏雫が震えていたのが分かったから。だから聞けなかった。何故そんなに自分と他人の間に壁をつくるんだ、と。 「君は…変わってるね」 『?』 「前から聞こうと思ってたんだけど君は妖怪が怖くないの?」 『どうして?』 「いや…俺が質問してるんだけど…。」 『だって急に梵天が変な事を聞くから…。』 「……変な事?」 俺は別におかしな事は聞いてない。 杏雫は何故そう思ったのか…… 『だって妖怪全てが悪い人じゃないでしょ?』 さも当たり前の事のように言う杏雫に俺は額に手をやり息を吐く。 「…何故そう思う?俺や露草、空五倍子がいつ君を襲っても可笑しくはないんだよ?」 『それならそれでいいよ。』 いいよ…って君ね…… 『だって梵天が助けてくれた命だもん。』 そうやって笑顔で言う杏雫が凄く……遠くに見えた。 『…!?…梵天?』 杏雫に名前を呼ばれるまで自分が何をしているのかが分からなかった。 ただ遠くに見えた杏雫を逃がさぬ様に自分の腕の中に納めていた。 自分よりも細い身体。 自分よりも細い腕。 よくこれで鵺の体重に堪えられたな。 初めて会った時に鵺の下にいたこの細い身体… ふわり、と優しい香りが梵天の鼻をくすぐる。 とても落ち着く匂い…… あいつと…同じ匂いを持つこの娘…… 最初は軽はずみな気持ちで彼女を拾った…。あいつに似ている雰囲気…容姿とゆう理由でここに置いていた。 しかし…いつからかその事を忘れて、ただ杏雫が此処に住む事を当然のように考えていた自分。 そして知らず内に目線が彼女の姿を捕らえている。 笑う顔、悲しむ顔、困った顔、君の全てを俺のモノにしてしまえたらと思っている俺。 あぁ……そうか…この気持ちが分かったよ… 繋がらなかった答えが今分かった…。 どうして杏雫といると胸が落ち着かないのか… ふっ…この俺が人間の娘にまさか…… まさか恋をするだなんてね 次→ (君は本当に…面白い人間だよ。) (???) . |