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33.置いてきた笑顔







今日はもう遅いということで屋敷に帰ってきた杏雫は縁側でぼっーと庭を眺めていた。



ふーっ、取りあえず明日の朝に与一さんの家に行って犯人を捕まえるための捜査をしなければ……
だけど犯人は何が目的で木を狙っているのだろうか。




『わっかんないな〜』



それほど珍しい木なのか?犯人は一体何が目的でこんな事をしてるんだろ…。
与一さんは恨みをかうような事を人にしていない、と言っていた。確かに人に恨みをかうような人には見えない。なら、妖怪?




『違うっ…』


まだ妖怪と決め付けるのは早い…



「何がだぃ?」




顔だけを後ろに振り返らせるとそこには腕組みをしてボクを見下ろしている梵天の姿が。





「下町に行ったのか」



『えっ!何で分かったの?』



隣に座る梵天を見ながら言う。だって彼に一言もそんな事話してないのに…




「後を付けてたからね。」



『買}ジで?!』



「俺がそんな野暮な事を本当にすると思ってるか?」

『あ、ですよね〜(遠目)でもならどうして?』



「…君の気配が下町に向かったのが分かったからね」



しょうがない娘だよ、と言いたそうなその顔にボクは胸を高鳴らせる。

そう。もう気付き始めているボクの心。
だけど、ボクは気付いちゃいけなかったんだ。この気持ちに。


「どうしたんだい?」



真っ直ぐな彼の瞳。心の中まで見透かしそうな真っ直ぐな瞳。それさえも愛おしいと思うのは…どうしてなんだろう。

気付いた気持ち、それは…………彼を……梵天を愛してしまった事。
そして気付いてはいけなかった気持ちだ。
ボクは人を愛する資格がない。いや、本当は愛するのが怖い。人に愛されなかったボクが人を愛してもいいのだろうか?その気持ちだけが昔からある。




“こっちに来ないで汚らわしい!!!!!”



『―――ッな、なんでもないよ!』


「……。」




一瞬、杏雫の顔が強張ったのを梵天が見逃す筈がなかった。
今も俺に心配をかけないようにと無理して笑顔を造っている。俺の知っている人間は自分の感情をすぐ表に出し、甘い考えを持つ生き物だ。
杏雫は…俺の知っている人間とは大分違う。杏雫は自分の事を一切話さない。
欲は出さないし文句の一つもない。



ただ、彼女の事を知っているのは、杏雫は今まで一度たりとも…………本当の笑顔を見せた事がないとゆうこと、何処か他人とは壁を作っているとゆうこと…。


だが、俺はその壁を乗り越えたいと考えてしまう。
杏雫の壁を俺が壊してしまいたい、と。






君の笑顔は、どこに消えてしまったんだい?


何処に………心を沈めてきてしまったんだ…?




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