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やっと聞けた名前








「杏雫!!無事だったのだな!一体何処に行っておったのだ!」



屋敷に無事返ってくるなり空五倍子からの説教が降ってきた。


『え!置き手紙置いておいたよ?』


「なぬ?!そ、それはきづかなんだ…。にしてもよく一人でここまで帰って来れたものだな。」

『一人じゃないよ?露草と一緒に帰ってきたんだ!』


「なんと!露草と!?」


『うん!ほら、うしr……あれ?』




後ろにいたはずの露草の姿が見当たらない。
可笑しいな、さっきまで普通に後ろにいたのに。



「杏雫、お主露草の名前……」


『そうそう!やっと露草の口から名前を教えてもらったんだ!!』



本当に嬉しそうに笑う杏雫の姿に空五倍子はいつの間にか微笑ましく思えてきていた。
しかしあの事を言えばこの笑顔はどうなるのかと考えてしまう。
今の杏雫にこの事を言うのは酷だろう。だからこそ我らの主、梵天はまだ杏雫には言うなと我に口止めをしたのだ。



「おっと、忘れるところであった。」


『?』



急用を思い出したかのように言う空五倍子に首を傾げる。



「杏雫、梵がお主を呼んでおったぞ?」


『え?…ボク……を?;』


「そんな青くならなくとも平気だ。逆に嬉しいものだぞ?」


『嬉しい…もの?それってなに?』


「それは直接梵の所へ行けばわかる。」


『分かった。じゃいってくる!!』




屋敷の中に入って行き姿が見えなくなったのを確認した後、側にある一本の木に話をかける。




「いつの間に杏雫と仲良くなったのだ?…………―――露草よ。」




ガサガサッと木の枝が揺れるとなにかが木から降ってきた。そのまま地に着地した姿は先程まで杏雫の後ろにいた筈の露草本人だった。



腰に手を宛て不機嫌そうな顔で突っ立っている。



「別に仲良くなったわけじゃねぇよ。変な勘違いしてんな。」



顔を横に背け空五倍子とは顔を合わせないようにする。


「しかし杏雫に名前を教えたのであろう?」


「その事だけどよ、俺の口からやっと名前が聞けたってのはどうゆう意味だ?あいつ(梵天)とかに聞かなかったのか?」


「うむ、そのことか。」



我も何故露草の名前を梵に聞かなかったのかを不思議に思い、杏雫が居ないときに杏雫と二人っきりで話していた梵に問うてみたのだ。


隣では静かに話しの内容を聞く露草の姿。
やはりこやつも知らず内に杏雫とゆう存在が気になってきている様子。
話しが止まった事に気付いた露草はなんだよ?と睨み付ける。




「すまぬすまぬ。で、我は梵に問うたのだ。」







一人部屋にいる梵天に空五倍子が訪れてきた。



「梵、杏雫に露草の事を話したのか?その、あやつも妖怪なのだと。」


「いや、名前すら教えていない。」


「?教えてはやらなかったのか?」


「杏雫が望んだのさ。自分には何も教えないでくれってね。」



先ほど杏雫と話していた言葉の内容を思い出す。




“ところで杏雫”



“何、梵天?”



“あいつとは話せたのか?つy……”



“あぁあああぁあ!!!”


“な、なんだぃ?急に…鼓膜が破れるから止めてもらいたいんだけど。”


“あ、ごめんなさい!だけど名前は言わないで!”



“…何故だい?”















“…生意気かもしれないけど彼自身の口から名前を聞きたい、彼自身の口から、彼の事を聞きたい。他の人から聞くのではなく彼本人から聞きたいんだ。
やっぱり名前は自分の口から聞きたいからね(笑)”




“杏雫、君は本当に面白い娘だよ。”








「と、梵が言うには杏雫はそう言っておったそうだ。」



一通りの話が終わり、空五倍子は露草の方へと視線をやる。
露草は杏雫が入って行った屋敷の入口の方をじっと見ていた。




暫くの沈黙が流れ、重く口を開いたのは露草の方だった。







「あいつ…馬鹿じゃねぇのか?んなの誰に聞いたって同じじゃねぇか。」


「……露草…お主。」


「………。」




何も言わずに姿を消した露草に空五倍子はこれからどうなることやらとまた一人頭を悩ませているのであった。




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(素直じゃないのはお互い様)




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