現れた小さなそれ。
あの人に言われて初めて私の存在に気付いたのか大きな瞳をさせこちらを見る。



「!ねぇ〜ちゃ!」



闇を知らないような笑顔で私に笑いかけてきた。なに、この子。


この子を見てから母親の方に視線を流すと先程の言葉を思い出し苛立ちがくる。

別に子供を作るのは良い。だけど、




「それでね、恭弥を…」


『ふざけないでくれる』



怒気を含んだ凛として低くなった雹の声に母親はビクリと身体を震わせた。
恭弥とはこの弟とかゆう子の名前だろう。


イライラするよ、本当。



『別に子供を作るのは良い。それは貴女達の勝手だ。でもその勝手に私を巻き込まないでくれる?すごく不愉快だ。』



紫に光る鋭い眼光に母親はただ顔を青くさせる。

私は生まれてからずっと仕事で忙しい両親に変わってメイドや召し使い達に育てられた。
けど群れを嫌う私は5歳、つまり去年に彼等を家から追い出している。
一人でも生きていける、お金は両親が残してくれたお金で生きている。


彼等の力無しでは生きていけない自分に吐き気がしたがそれはまだ私が子供だから仕方がない。
だから嫌々ながらお金は使わせて貰っていた。




私を捨てた次は、この子まで捨てるのか。



それがどうしようもなく、腹にきた。



母親は一度恭弥に視線を流し向こうの部屋で遊んでおいで、と言われこの荒んだ空気を知らずに元気よく頷いてから部屋から出て行く。
その姿が消えるのを確認してからソファーに座り目の前に座る雹に視線を戻してから口を開かせた。




「雹ちゃ……」



呼ぶな、私の名を。


吐き気がするよ、貴女達には。




『出て行きなよ。』



貴女達の帰る場所はもうここには無い。




これ以上話すことは無いとソファーを立ち部屋に戻ろうとする雹にか細い震えた声が静かな室内に響く。



「ごめんね…でも仕事、だから……だけd…ッ!」



母親の言葉は途中で止まる。いや、止められたに近かった。




『言い訳?見苦しいよ』



首元に感じる冷たい金属。そして目の前には見下ろすように睨み据える雹。




『貴女達はどれほど私に迷惑をかければ気が済む?どれほど自分勝手な事を私に押し付ける?いい加減にしなよ。』



ギリッと目の前の女に押し付けているトンファーを強く握り、怯えた草食動物と同じ目をさせている女からそれを退かす。


トンファーを仕舞い、そのまま部屋の入口の襖まで向かう。襖に手を掛け開けて目線だけを後ろに流し、





『これで最後。早く出て行きなよ。』



最後にあの人が静かに涙を流していた事は見なかったことにし、私はその場を去るため部屋を出た。





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(言い訳な言葉なんていらない。結局彼等は昔と変わらない。)


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