クローナ躯髏 (1/2)


透が気を失い隣の部屋で寝ている頃、犬と千種は話し合っていた。




「クローナ躯髏。骸様が彼女に刻んだ名前だよ。」



静かに口を開かせた千種の前では真剣な顔をして話を聞いている犬。
そのまま千種は話を進める。




「裕福な家庭の一人娘。母親は女優。父親はある会社の副社長。もっとも父親と血のつながりはない。十日前、乗用車に激突され、その事故で内臓の一部と右目を失う。そして、生死の境をさ迷う魂が、精神世界で……骸様と出会った。」



今まで黙って話に耳を傾けていた犬がピクリ、と反応する。
千種もそれに気が付いていたが話を続けた。




「彼女には、特別な才能があった。強制的な憑依や洗脳を必要としないで、骸様の精神と能力の器になれる才能が。」


「……だから、骸さんに選ばれたのかよ。」



やっと話た犬の言葉に千種は当たり前だろ、と冷たく返す。



クローナ躯髏について二人話し合っていると、扉の方から人の気配を感じた二人は同時にそちらに目を向ける。



目を向けた先には今まさに話していた人物、クローナ躯髏がいた。
何故か無言のまま、扉の陰に隠れながらこちらの様子を伺っている…。




「ンなとこで何やって……!」


『あの……言いたいことが……あって…』




目を覚ました私は真っ先に二人に骸様から言われた伝言を伝えようと寝ていた身体を起こして来たが……犬が何故か怒っていた…。

私、何かしたかな?




「言いたいことぉっ!?てんめー、つまんねーことだったらタダじゃおかねーびょん!」



……つまんない、ことじゃないけどなんか私の話を聞きたくないようだし…





『……じゃ……いい…』



「って、気になんだろうがぁっ!さっさと言えよコラァッ!!!」




顔を険しくして犬が怒鳴るから驚いてビクッと身体が震えた。
だって、犬が怒ったから言わなかったのに…
言わなくても怒られた…なんで?





『…骸様に言われたの……私、二人といっしょに………戦う……。』



骸様の代わりに戦う、



そう言ったら突然犬の顔が更に険しくなり、



「骸さんの代わりにだとおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」




奇声をあげながら私の目の前で走り寄ってくる。速いその動きに抵抗する間もなく頭を犬の小脇に抱え込まれた。
どうしていいか分からずただ手をパタパタと振ることしか出来なかった私はそのまま犬に部屋の真ん中まで引っ張られた……。
































『……………』





10分後、自分の身に何が起こったのか分からなかった。
ただ私の持つ手鏡に写る自分の変わり果てた髪型に口をポカンと開けて驚く。



そのすぐ後ろでは片手にハサミを持ちフフンと鼻を鳴らしている犬に千種は呆れた顔をして頭を横に振る。





『…………。』



鏡に移るのは骸様と同じ髪型の私……。
上の髪はいじられたようで下の髪も若干いじられた様だけど長さはそのまま…。





静かに手鏡を床に置くと目と胸の奥から熱い何かが溢れる。



普通の女の子なら髪は大事だから切られるのは悲しいこと。
しかし透はそんな事より嬉しさと幸福で胸の中が一杯だった。



くすん、鼻をすすると後ろにいた犬と千種に聞こえたらしく犬が何故か慌てている。




今まで人前で泣いたことが無かった私はそれが恥ずかしくて顔を手で覆ってそのまま隣の部屋に走っていった。




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