奇跡と出会い (1/3)
「……ん」
膝の上に乗せていた頭がもぞもぞ動き、そちらに目をやると彼の下ろされていた瞼が目を開けようとゆっくりと持ち上げる。
「んあ?」
まだ寝ぼけているのか目の焦点が合ってなく、覚醒していない。
しかし犬は寝る前と違った頭の下にある感触に少しずつ頭を覚醒させていく。
「ん?んんんん!?」
自分の頭の下には芝生とは違った柔らかく、温かい、まるで人の温もりのような物がある事に一気に目が覚めてそこから飛び起きた。
自分がさっきまで頭を寝かせていた場所を見ればそこには古いブラウスを着て右目には医療用の眼帯を付けた、自分と同じぐらいの少女が感情の無い目でこちらを見ていた。
犬はやはりこの女の膝の上で自分は寝ていた、と再確認をする。
「ひ、ひひ、ひざ…ざざざざざざざ……」
『…………。』
まるで壊れた機械みたいに話す犬に透はきょとんと見つめる。
「ななっ、なんだよ、てめぇはぁっ!!!」
『あっ……』
犬の突き出された手が額に軽く当たって無抵抗にもそのまま後ろにこてんと倒れる。
「たっ、倒れてんじゃねーびょん!これぐらいで、おまえ……」
『……………。』
犬だと思われる男の子に手を突き出されてそれが私の額に当たり重力に従って後ろに倒れた…。
倒れたまま、私は犬に言われた言葉を頭に巡らす。
私は、なんなのか……
分からなかった…。
私は、誰なのか。
誰として産まれ、何の為に生きてきたのか…。
意味もなく、ただ日常の流れに沿って生きてきた。そこにあったのは無。
暫く私が考え事をしながら起き上がらないでいると犬は中々起き上がらない私に慌てていた。
倒れたままぴくりとも動かなかったがひょこっと無言で身体を起こす。
「のあっ!?」
『………痛い……』
額をさすりながら言う。あの長い爪が少し刺さった…。
透の言葉に唖然としていた犬は、ハッと我に返り透に詰め寄る。
「お前、誰なんだびょん!?なんれ、オレのこと…オ、オレのこと……」
混乱しているのか目は動揺の色を見せ、
「あ―っ、もう、とにかく、なんれオレにあんなことしてたびょん!!なんれらびょん!!なんれらびょん!!!!!!」
頭を掻きむしりながら叫ぶ。
なんで?を連発して聞いてきた犬………なんでっ、て…
『……………死にそうだった…から。』
「んあっ?」
『死んじゃう……かわいそう。』
先程まで芝生の上でまるで死んだように眠っていた犬…。
死ぬのは、かわいそう。骸様が、悲しむ。
それに初めて犬を見た時、何処か野生的で、捨てられた犬に見えた。
私は動物が好きだから…死ぬのはかわいそう。
「なっ、なんらそれ?オレはそこらへんの野良ネコか何かかっつーの!」
『…………』
「そんな違うの?みてーな目で、オレを見るんじゃね――――っ!!!」
私が心の中で言った言葉が何故か彼に伝わってしまい、犬は足をじたばたさせ暴れる。
……が、しかし、それもある音で動きがピタリと止まってしまう。
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