六道骸VSマーモン (2/3)
あれは、僕が脱走に失敗し、脱走が困難と言われている光も音もない最下層の牢獄に繋がれてから間もない頃。
暇つぶしで精神世界で散歩をしていた時に、必然的な出会いをした。
「千種と犬は無事に逃げ切れているといいのですが…」
草原をさっそうと歩いていると不意に、今にも消えてしまいそうな、鈴のような声が聞こえた。
―……不思議…全部、聞こえる。
あぁ、私…死ぬんだ。
おかしいね…
なんだか、少しだけ…
ほっとしてる……
やっと…終わる……
?これは…なんだ?
不意に精神世界に流れ込むように響き渡る悲しい声。
おかしな子だ。自分が死ぬという事に恐怖感など無く、安心しているというのですか?
私は日向透として産まれたのに、何を理由に何の為に生きてきたのかすら分からない、半端な命だった。
いつもこのつまらない日常が早く終わればいいのにとも思っていた。
この広い世界で私一人が消えても誰も気付かないし誰も、悲しまない。
でも、これでやっと、やっと、終われる……
おやおや、随分と寂しい世界で育ってきた娘のようですね。
ただその娘の意識が僕の世界に流れてきたその偶然に面白く感じた。
…………ふむ、彼女の名前は透、ですか。
透の終わりとゆう言葉に僕は失笑とも言える笑みを浮かべ。
「終わるものか…巡るばかりさ。」
そう、僕には終わりがない。
この六道輪廻がある限り。
永遠に生き、永遠に忘れることの出来ない記憶を持ち、僕は生まれて死んでいく。その繰り返しだ。巡りに巡り…終わりのない世界を僕は一人生きていく。
そんな独り言で言ったつもりが、
!誰………?
!これは珍しい。僕の声が聞こえたんですか。
「おや…僕の声が聞こえるのですか?」
さくっ、と素足で草を踏み締めると湖の近くでベッドに横たわっている少女が目を覚まし。
「クフフ…散歩はしてみるものですね。」
もし今日、気まぐれで散歩をしていなかったら…こんな素晴らしい出会いを見過ごすところでしたよ。
ベッドから起き上がり、裸体をシーツで隠し起き上がる彼女。確か名は……
「透…君は、僕と似た者同士なのかもしれない。」
僕達は錆び付いた世界で生き、色がない白黒な環境で過ごし、いつしか自分の意思が消えていく腐った世界。
誰かに愛情なんて貰えず周りからは疎ましい目で見られる。
そして僕はこの少女が"特別な身体"の持ち主だということに気が付く。
身体がない僕には"特別な身体"を持つ彼女が必要だ。
そして、内臓を失った彼女には"特別な力"を持つ僕が必要だ。
「透………透…、僕には君が必要です。」
透は目を見開きじっとこちらを見遣ってから小さく俯き、シーツを握りしめている。
『私…が、……必要?』
「えぇ。僕には"君"が必要です。実は…僕は今訳あり、自由に動けません。」
『?』
「君が僕と共に生きてくれるなら……」
『ま、待って…!』
その時初めて、彼女が自ら口を開いた。
ちらりと彼女に視線を流すとシーツを握りしめたまま、肌が晒しだされた肩が小さく震えている。
『わ…私……無理、です。』
「おや?何故ですか?」
『私……もうすぐ…死ぬ、から。それに…』
声のトーンが落ち、顔に影がさして無表情になる。
せっかくの可愛らしい顔が台なしですね。
『それに……私、もう…生きていたくない。』
「……なら、僕のために生きてみてはくれませんか?」
『…!!』
吃驚した表情でハッと顔を上げて僕を見る透。
心なしか、目に涙を溜めて。
『あなたの…ために?』
声が震えている。君は昔の僕に似ている。だからか、透。
「えぇ。僕には透が必要ですから。」
お前を放ってなど置けなかった…。
「ですが、君がこの手を取ればもう表の世界で平和に生きていけないことを知っておいて下さい。」
『?表…?』
「そう。僕達は君達が住む表の世界とは真逆の裏の世界で生きています。透達が住む表の世界は平和で平凡な日常があり、僕達裏の世界にはマフィアがいます。殺戮、強盗、暴力、裏切り、人を殺す事など日常茶飯事。」
『あなたも…マフィア…?』
「クフフ…元、ですがね。僕はその世界から追放されましたから。」
透がじっーと見ているかと思えば彼女はするりとシーツから抜け出し、何も身に纏わず僕の方まで歩いてきた。
「!透、身体を……」
隠しなさい、と言う前にそっと両頬に触れた温もり。
それは透の手の温もりだった。
『……あなたも…』
「?」
『居場所…無かった…』
「!」
『私…も。でも……貴方が…くれると言った。』
「透…」
『貴方は私が…必要と、言った。……私…にも………貴方が、必要…。』
だから…私と貴方の居場所、今はある……
「!ク、ハハハハッ!!」
突然笑い出した骸に透は首を傾げている。
そんな彼女に骸は同情や支配欲からではなく、純粋に彼女が欲しいと思った。
曇りのない純粋な瞳。
あぁ、この娘は何故あんな腐った世界で生きていたのにこんな純粋な瞳を持ち続けることが出来たのでしょうか。
何も身に纏わない透の身体を引き寄せ優しく抱きしめた。
「もう一度、問います。君は表にある平凡で幸せな人生を捨て、殺戮と裏切りある世界。今の名前を捨て、マフィアとゆう人生を歩む覚悟があるならば…僕の手を取りなさい。だけど先程も言ったように、君がこの手を取ればもう表には戻れない。」
『……私には…表にいても、平凡でも幸せでも無かった。何もない…。でも、貴方が私を必要と…言ってくれた…。貴方が私を助けてくれた。覚悟ならあります…私は貴方のご意思に従いたい。』
そして彼女は、僕の手を白くて小さな手で取った。
『…ありがとう……骸、様…』
―――――――
―――
一筋の涙を流した後、透は笑った。
まるでこんな自分にも居場所があったんだ、と言うかのように。
意識を戻せばいつの間にか自分の身体は全身氷漬けになっていた。
おやおや、僕は随分と意識を外していたようですね。
つい可愛い透との思い出に浸かっていましたよ。
周りいるボンゴレ達の声が聞こえる。そろそろ始めますか。
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(僕だって、負けてあげるわけにはいきませんよ。)
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