名前 (3/3)
な、なんで……
この人が、捨てた私の名前を…っ
「初めて君と会った時に名前を聞いたの覚えてる?」
そう、確かに聞かれた…でも……でも私は教えてないっ!!
知らず内にケーキを持つ手が震えていた。
「君は教えてくれなかったけど、最初はまぁいいか。と思っていた。……けど昨日君と再会し、やはり君の名前を知りたいと思いその後調べたら出て来たんだよ。」
『………。』
何故だろ…名前だけじゃなく、嫌な予感がする…。
だめ、それ以上言わないで、
「日向透で調べたらおかしな点が出てね…。」
いや、やめて…
「日向透は数日前に事故にあって右目と内臓を負傷……。」
『ッ!』
やだ、いや……
「普通なら死んでいる。でも日向透はここにいるよね……君はクローナ躯髏じゃなくて透なんでしょ?」
――――やめて!!!
『イヤッ!!!』
「!」
バッと耳を塞ぐ。
聞きたくない、聞きたくない―――!!
事故のことも、透の名前も!聞きたく、ないっ
「透?」
『私は透じゃないッ!!』
叫んだのは事故に合ったあの時以来だった。
冷汗なのか脂汗なのか分からない汗が頬を伝う。
違う、違う――
透は死んだ、透は死んだの。
あの日、あの時…透は死んだ。
― クローナ……
そう、透は死んで、骸様から命を貰い、新しい名前を頂いた。
誰にも必要とされなかった透はもう死んでいない。
私はクローナ躯髏…
骸様達のために戦い、生きる存在…。
「透、」
『ッいや!!』
耳を手で塞いだままギュッと強く目を閉じる。
お願いッ…クローナ躯髏の存在まで…否定しないで……
身体がカタカタと震えてまるで全てを拒絶しているようだった。
「………なにが、そんなに嫌だった?」
『―――っ。』
そんな怯えた様子のクローナの頭にポンッと乗せられた暖かな手――。
どうして……涙が溢れるの?
この人が優しい声で、優しく接してくれるから?この人の温もりが……温かかったから?
それとも…
彼が私の心を見透かしてるようだったから?
頭を優しく撫でてくれる雲雀さんの手つきは、前に出会ったときネコさんを撫でていた時の様に優しいものだった。
『……透は、いない』
スッと彼の温もりから抜け出すように数歩後ろに下がる。
これ以上この人といると私が私でなくなるようで怖かった。
「………。」
『透は、死んだの……。』
「……。」
ふらふらと後ろに下がりながら話す躯髏に雲雀は何も言わず、動かずに聞いていた。
『お願いっ……』
雲雀が彼女の顔を見ると涙が、ぽつッと頬から落ちた時だった。
細い目が開き驚きの色になり、彼女を見る。
躯髏は静かに口を開いた。
『これ以上…私を、知ろうとしないで………。』
涙声で苦しそうな表情をさせ、躯髏は身体を反転させ何時ものよう走り去って行ってしまった……。
―――――
『――っ……ぅ…』
あの場から走って逃げてきた私は並盛から黒曜まで戻って来ていた。
『……っ…むくろ…さま……!』
涙が止まらない。
なんて私は弱いのだろう…。
透の名を呼ばれただけで、こんなにも心が乱される……。
なんでだろ、
あの人……雲雀さんには透の存在を知られたく無かった…
END
(私は……あの人が……)
(なんで君がこんなにも気になるんだろう…。)
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