奇跡と出会い (2/3)





―くぅぅぅぅぅぅ……



自分の腹が鳴った音に犬は顔を赤くさせ、ちらっと透の方を見る…




『……くぅ?』


「!」



改めて言われて犬の顔が更に赤く染まる。
よっぽど恥ずかしいかったのかその場にうずくまってしまう。




『…お腹……すいてる?』



あんなに大きな腹の音を聞いたのは初めてで、よっぽどお腹減ってたんだと分かる。



「べっ、べべ、別にお前には関係ねーっつーか……」



だけど犬は見えを張って言う…。
別に恥ずかしがること無いのに……。
それにお腹空いてるのに何か食べないと…。
不意にあのひとりぼっちだった黒猫の子猫の母親を思い出す。
ネコさんのお母さんも、何も食べていなかったのか痩せ細って死んでいた…。
犬も、そうなったら……




『…死んじゃう。』



お腹空いてるのに食べない=死んじゃう。の方程式が透の頭の中に現に出来ていた。



近くに置いていた紙袋を手に取っていると後ろでは大きな声で話ている犬。



「だから死なねーっつーの!!!何度も勝手に死にかけ扱いすんなっつーの!!いいか!オレはお前みたいなヤワなオンナと違って……」



紙袋から出したものをすっと犬に差し出す。
それを見た犬は開かせていた口を閉じて目を見開いてそれを見た。




透が黙って犬に差し出したものとは此処に来る前に八百屋で買った赤く熟した林檎。




「あ……」



その林檎を見た瞬間犬は懐かしさに胸を広げ透の手から林檎を取りガツガツと無我夢中で食べてそれを胃の中に送る。




「あ…なっ……なんらよ、これ……な、なんれ………なんれ……。」



まるで、昔の自分に戻ったようで、骸が自分にしてくれた事をこの少女が簡単にもしてくれた事に犬は何年ぶりかの涙を流した。


いつからだろう、涙を流さなくなったのは。
いつも実験台のモルモットとして扱われてきた自分や千種は泣けば殺される世界にいた為、涙を流す事を忘れてしまった。
いや、忘れさせた。
生き延びる為に、泣く感情を捨てたのだ。



今犬の胸に悲しさは無い。あるのは嬉しさと寂しさだった。
その感情を今まで体験したことの無い犬は混乱状態になり、随分と汚れた服の袖で涙でぐちゃぐちゃな顔を拭ってからそのまま走り去って公園を出て行ってしまった。




『あっ……』



後を追おうとしたがもう犬の姿は何処にも無かった。



どうしよう……犬と千種達と一緒にいなきゃいけないのに…。
彼と一緒に行けば居場所が分かったが、その彼の姿は無い。





『………犬、』



目線を下に下ろすとさっき犬が食べていた林檎の茎が落ちていた。



彼はお腹を空かせていた…
とゆうことはやはり千種もお腹を空かせてるんじゃ……。






『…死んじゃう、、』



紙袋を抱えて家に向かって走る。




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(犬も千種も、死んじゃう…)



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