“ガラッ”

翌日の朝早く、名字名前は美術室にやって来た。自分の絵を駄目にしたのは自分の勝手だとしても、美術室を汚してしまったのが気になって片付けに来たのだ。

「えっ?」

緑色しか零していないはずなのに、そこには赤色や茶色が点々と床を汚していた。ちょっと気持ち悪い。

「何で?」

その点々を目で追って、行き着いた視線の先には赤いリンゴが実ったキャンパスがあった。多分、私のキャンパスだと思う。

「うわぁ、これ指で描いたのかな?」

所々残る指紋に指を重ねるように人差し指を出してみた。人差し指だけじゃない、きっとこっちのは親指で、葉っぱの付いた茎か枝か茶色の部分は小指だろうか?丁度キャンパスを立てる木製の足が幹に見えない事もなくて面白い。

「…………。」

その絵を見ていたらウズウズした。さっきまで色褪せていた私の中の色彩が色付き始めた。私は白い絵の具を用意して、指に色を託しキャンパスに乗せる。

「出来た!」

緑一色だった所にリンゴが実って、更にリンゴの花が咲いた。現実では有り得ない光景。だけどココはキャンパスの中。何だってありの世界。

「指で描くとかやったことないよ。」

真っ白になった手を見てケラケラ笑った。絵を描いて、自然と笑えたのなんて久し振りな気がする。

「これ描いたの誰なんだろ?会ってみたいな−。」

くすぶっていたけど、やっぱり絵を描くのは楽しい。まだまだ無限の可能性があると思えた。また描けそうだ。

「さてっ、掃除しますか!」

何故か美術室の真ん中に転がっているモップを拾い上げた。まずは掃除して描く場所を綺麗にする事から始めよう。