「真ちゃぁぁぁぁぁん!!!?」

状況を見ていた高尾君の驚きの声と共に、真太郎は倒れた。見事に崩れ落ちた。

「ちょっ!?真ちゃん、大丈夫?ていうか意識あるの、これ!!?」

(あっ、やばい。)

倒れた真太郎と高尾君の慌てっぷりを見て、頭突きで少し落ち着いた私の脳は冷静な状況判断を始めた。

(真太郎、顔は大丈夫かって言おうとしてたよね?多分さっきのは、私が目を閉じてたから目を打ったんじゃないか心配して見てくれてただけだよね?)

私が勝手に真太郎が出る夢を見て、それと今の状況がデジャブしてたから勝手に焦って、そして勝手に頭突きである。どう考えても悪いのは私だ。

「名字ちゃん、何でこんな事したの?!」

「恥ずかしかったから……かな?」

「それって俺も抹殺されるの?!」

私は肩を掴まれたり顔を近付けられたのが恥ずかしかったと言いたかったのだが、高尾君は怖いものでも見るような目で私を見て来た。どうやら木にぶつかった失態を見られたのが恥ずかしかったから真太郎を抹殺したと思われたらしい。

「いや、真太郎まだシんでないでしょ?」

「息の根だけは止めないで!!」

「いつまでコントをしているのだよ!!」

私達の会話に突然真太郎が加わった。無事だったらしい。ただし額を痛そうに押さえてはいるが。

「真ちゃん、痛みで喋れないだけで意識あるから大丈夫かと思って。」

「大丈夫な訳がないのだよ!!」

「それだけ元気なら大丈夫だよ、真太郎。」

「お前が言うな!!この石頭!!」

立ち上がろうとする真太郎を見て、咄嗟に手を貸しに近寄った。しかしそれをわざとらしく拒否した真太郎は制服の土埃を落としながら1人で立ち上がった。

「ごめんなさい。」

「ふんっ。」

真太郎はそれだけ言って歩き出した。高尾君は真太郎の隣を歩く。私も行く方向は同じなので、後ろを付いて歩く形になった。

「真ちゃんにしてはアッサリ許すんだ?もっと怒るかと思った。」

「許した覚えはないが、名前の反省度合いくらい見れば分かる。それに昔からこの程度はよくある事なのだよ。」

「こんな事がよくあるって、名字ちゃんどんだけアグレッシブなの?」

真太郎はわざと聞こえる音量で喋っている。これは嫌みではなく、真太郎なりの“怒ってはいるが、許してやらない事もない”発言だ。

「ところで名前、ぶつかった箇所は大丈夫か?」

高尾君にぶつぶつ文句を言っていた真太郎が振り向いて聞いて来た。ドキッとしたのは罪悪感もあるけれど、違う物も混ざっている気がする。

「大丈夫だよ。」

「なら良い。」

「ありがとう。」

真太郎は態度や表現はひねくれてしまった所があるけれど、優しさは変わっていない。昔の私は優しい真太郎が好きだった。心臓が跳ねるのは、きっと今でもそうだからなのだろう。

(今朝の夢は昔の真太郎も今の真太郎も好きだっていう潜在意識だったのかな。)

でもやっぱり昔の方がかわいいでしょう。そりゃそうでしょう。今の真太郎はかっこいいもの。きっと全ては恥ずかしかったから。真太郎をぶっ倒したのも恥ずかしかったから。今と昔を比べた時に昔の真太郎ばかり見ていたのは、今の自分の気持ちと向き合うのが恥ずかしかったから。これからは今までよりもっとちゃんと向き合っていこう。