同じ高校に通ってはいるが、真太郎がバスケ部の朝練から居残り練習までほぼ毎日みっちり部活漬けな上にクラスが別々な為、あまり顔を合わせる事はない。今日も通学路では合わず校門まで辿り着いた。

「ありゃ?名字ちゃんじゃね?はよっ!」

その声に振り向くと高尾君が居た。高校に入ってから真太郎がよく一緒に居るから私も顔馴染みなのだが、嫌な予感しかしない。

「おはよう、高尾君。……と、真太郎。」

「名前。何なのだよ、その顔は。」

やはり高尾君の隣には真太郎が居た。この2人は必ずいつも一緒に居る訳ではないが、世の中の摂理というのは居ない方が良いと思えば居るものなのだ。

「見慣れた顔でしょうが。まさか忘れたの?」

「あからさまに嫌そうな顔をするから聞いてみただけなのだよ。」

真太郎はとにかく体だけではなく態度も大きく成長した。昔のかわいさなど欠片も残っていない。怪訝そうに眉をひそめ、自分の言った事の正しさを視線で主張し、眼鏡を指で押し上げる姿のどこを好きになれようというのか。

(あ−、かわいくね−。夢の中の真太郎は良かったな−。あの頃は真太郎が好きだった気もするわ。うん、あの頃なら。)

「名前、ちゃんと見ろ。」

「えっ?」

「おいっ!前なのだよ、前!」

「……いでっっ。」

考え事をして歩いていたせいか、私は見事に校門を入ってから校内に植えてある木にぶつかった。

「名字ちゃん、大丈夫!?」

痛みで思わず目を閉じてしまい視界は真っ暗。フラつく体を誰かが支えてくれたが、聞こえた声から高尾君だと予想した。真太郎はどうせ高みの見物でしょうよ。あの高い身長で見下した視線をくれている事でしょうよ。

「だ、大丈夫大丈夫。ありが……。」

しかし開いた目で捉えた人物は私の予想に反していた。

「えぇっ、真太郎!?」

「名前……。」

さっきから今朝の夢と今の状況とがデジャブしている。真太郎が私の肩を掴んでいて、真面目な瞳で見つめていて、顔を近付けて来るのも夢のまま。夢と現実が別物な事くらい分かっているのに、心臓が痛いくらい脈を打って、頭にも血が上って、冷静な状況判断が出来なかった。

「顔をぶつけたようだが大丈……。」

「いや―――――!!!!」


真太郎が喋りきる前に、私の渾身の頭突きが真太郎の額にぶち当たった。真太郎に掴まれている肩から下の体は石みたいに動かなかったのに、頭だけは動いたから不思議だ。