私と彼女について




 ある日突然現れた彼女は、なぜだか私を「兄さま」と呼ぶ。そして私を無条件に慕い、ただひたすらに恋う。正直に言って気味悪い。
 前に一度、気味が悪いので追い出そうとしたら、泣かれた。泣いて泣いて、そして自ら命を断とうとした。それをどうにか宥めて、素性も分からない上、どういう原理なのかはわからないが家から出られないので仕方なく家に置いている。
 彼女と一緒に暮らすようになってから分かったことがいくつかある。彼女はお腹が減るということがないこと。姿形は人間そのものなのに、彼女は私以外のなにものも欲しない。人間ならあって当然の、食欲や睡眠欲がないのだ。だがそのわりには彼女はとても家庭的で、料理がうまい。数字はてんで駄目だが、文学や歴史には明るいこと。お笑いとグロい映像は苦手なこと。とにかく私を好きだということ。──私以外には見えないらしいこと。


「兄さま、ご飯出来ました」
「……ん、もうそんな時間か」



 一番困ったのは一番最後だ。ときたま来るイッキには姿が見えないようで、知らぬ間に珈琲が出てきたとこないだはひどく驚いていた。目の前で彼女が置いたにもかかわらず、視認できていなかったようだ。彼女も驚いていたところから察するに、彼女も知らなかったのだろう。以来彼女は来客中には現われなくなった。




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