06
靴箱を開けるとあまりの生臭さに思わず扉を閉めた。ここ最近、また嫌がらせが頻発していたから、念のため開いている靴箱に入れていたのだが、また嫌がらせされていた。ため息をついて、カバンからビニール袋を取り出して靴ごと入れて、きつく口を閉めた。手慣れてしまったのが悲しい。
こうした嫌がらせは、中学に上がってしばらくしたころからちょいちょいあった。涼太がモデルとして活躍しはじめてからだ。ファンの子たちは私が気に食わないらしい。一度涼太にばれてからは一時的になくなったんだけど、少し前からまた再開した。それがどうも、男性かららしいのだ。写真と一言添えただけの手紙。丁寧な字を辿って行くと、いつもの名前。手紙はどれも黒子テツヤよりと最後はしめられている。確実に彼が犯人なのに。
どうしてまだこんな嫌がらせが続いているんだろう。
もういやだったから、あんなことまでしたのに。どうして。学校なんか、来なければいいのに。いじめられているのに毎日学校に来る彼はすごい。私なんて、涼太が一緒じゃないと怖くてどこにもいけない。
その場に座り込んで、膝を抱えて俯いた。
上がっちゃって人とあまり上手に話せない私を支えてくれたのは家族と涼太だけだった。おまけに引っ込み思案なものだから、友達だっていない。
廊下を駆け足でかけてくる男が聞こえて、涼太かもしれないと思って顔を上げた。
「ごめんっ#幼なじみ#っち!ちょっとファンの子に捕まっちゃって」
涼太が苦笑しながら靴を履き替えた。
また、女の子のせい。
中学生になってから涼太は小学生のときより格段にもてるようになった。ときには彼女を作っては、私をないがしろにする。ずっと一緒に居てくれると言ったのは涼太なのに。なんだか涼太が遠くに行ってしまったみたいだ。
心の中に、どす黒い思いが渦巻く。涼太は、私のなのに。
それでも最近は、涼太が私を何かと気に掛けてくれるから嬉しい。じゃなかったらいじめに耐えかねて、今ごろ不登校になってるだろう。
私がまだ上履きなままなのを見て、涼太が血相を変えた。もしかして、と呟く涼太から思わずといった体(てい)で袋を隠した。こうすれば、もっと涼太が構ってくれる。
「またかよ……っ#幼なじみ#っち大丈夫!?」
涼太が屈みこんで、私に目を合わせて言う。蜂蜜色の美しい瞳は、私を不安そうに見ている。
「大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ!こんな真っ青な顔して、泣きそうじゃん。もっとオレを頼ってよ」
本当に、大丈夫なんだよ。だってそばに涼太が居てくれるもん。だって涼太が守ってくれるんだよね。そう言ってたもん。だからね、大丈夫なんだよ。
泣いてるなんて、涼太の気のせいだよ。
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