03



黒子が次の授業の教室へと急いでいると、#名前#と目が合った。あれから気まずくて#名前#とは話をしていなかった。どうせ彼女も僕のことを信じてないと思うとどうにも会いづらいし、なにより影が薄くよく素通りされてしまう黒子をいつも見つけてくれた彼女に対してそう思うことは裏切り行為に近いと黒子は感じていた。黒子はとっさに目を逸らして俯いて足早に去ろうとした。


「まって!」


ぐいと手首を引かれて、驚いて黒子は教科書を落としてしまった。ごめん、と彼女が口早に謝って落とした文房具と教科書を拾う。


「ありがとうございます」


慌てて黒子もかがんで一緒に拾う。早くしまって、立ち去ってしまいたかった。彼女から他の人と同じように暴言を吐かれるかもしれない。そう考えると、それだけでもう、悲しかった。
教科書とノートを、#名前#が黒子に差し出す。黒子は彼女と目を合わせないで、それを受け取るともう一度ありがとうございますと言って去ろうとした。


「待って!黒子くんっ」


その腕を#名前#が掴んで引き止めた。始業を告げるチャイムが鳴った。ああ、授業に行かなくちゃいけないのに。黒子は腕を振りほどくこともできないまま、二人で渡り廊下に立ち尽くした。


「あのね、黒子くんに聞きたいことがあるの」


黒子は俯いたまま、彼女の言葉の続きを待つ。


「#幼なじみ#さんに嫌がらせしてたって本当?」
「してないです、そんなの」
「殴られたって言ってたけど」
「っ僕はそんなことしてません!部室だって僕じゃない!濡れ衣だ!」


思わず黒子は叫んだ。
全部僕じゃない。彼女の自演だ──そう伝えたかった。誰も信じてなんかくれないだろうと、そう思ったら言うのが虚しい気がしてずっと言わなかった。
彼女はいつだって、黒子を見つけてくれた。影が薄くて見落とされがちな黒子を、どこにいたってちゃんと見つけてくれた。そんな彼女にまで誤解されたままなんて、例え嘘と言われようとも嫌だった。


「そっかぁ、良かった」


ホッとしたように彼女がへにゃっと笑った。黒子の手を優しく両手で握って、もう一度、よかったぁと言う。
黒子は驚いて顔を上げた。


「だって黒子くん、とても優しい人だもん。そんなわけないと思って、ずっと本当のこと聞きたかったのに、黒子くんたら、いつも逃げちゃうから」
「……僕を、信じてくれるんですか」
「──信じてるよ。だって大好きな人だもん」


彼女が少し恥ずかしそうにはにかんだ。
黒川は思わず涙が滲んで、慌てて目もとを擦った。
あぁ、僕はなんて思い違いをしていたんだろう。情けない。彼女はこんなにもまっすぐな目で、僕はを信じてくれているというのに、僕は信じれなかっただなんて。


「ありがとうございます」




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