こくり、と息を飲む音が聴こえて。
見開いた琥珀に吸い寄せられるように近づけば、ルーシィが小さく嘆息する。

「お菓子やるからって…」
「おう」

こつり、とくっつけた額からは温い温度が流れ込んできて。
綺麗に塗られたリップグロスが甘い吐息と熱を乗せて震えた。

「普通どっちかって問いかけるのよ」
「じゃぁ、お菓子いらねぇからイタズラ…」
「いや、それじゃ選択権ないから」
「なんだよ、ケチだな」

口を尖らせて訴えれば、胸に添えられていた手に力が込められて。
あまりにも自然に離れようとするから思わずその手首を掴んで距離を詰める。

「わ…こ、今度は何!」
「離れようとすんなよ」
「ち、近いんだってば…」

困ったように顔を逸らされて、胸の奥が微かに痛んだ。
全然近くないのに。こんなに離れているのに。
小さな不満は徐々に膨らんでいって、感情を掻き乱す。

「ルーシィ」

「なに」と開いた口をそのまま塞いで。
見開いた瞳が耐えるように揺れて、肩を震わせた。
息をすることを躊躇うように呼吸は止まっていて。
苦しそうに瞬いた琥珀色には水分が滲んでいる。
そんな表情の変化をゆっくりと眺めていれば、身体がぐらりと傾いて。
押し倒すように床へと倒れ込んだ。

「―――っあぶね」

衝撃から庇うようにその肩を抱き込めば、ルーシィは頬を真っ赤に染め上げていて。
声にならない音をぽつりぽつりと零すように口を開け閉めしていて。
その様子があまりにも面白くて噴き出すように笑えば、止まった時が動き出したようにルーシィが叫ぶ。

「な、ななにすんのよっ!!!」
「近くねぇだろ」
「は、はぁ?」
「あ、それから今のはイタズラじゃねぇからな」
「い、意味わかんないんだけどっ!」


なんていらない
そのくらいくにいたい



fin.
***
おまけと言えるかどうかも定かではない何か。

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