聖なる夜に訪れた冷たい夜気が頬をひんやりと撫でた。
ギルドは今夜も盛大に賑わっているに違いない。
街中を彩るイルミネーションはきらきらと輝いて、道行く子供たちや恋人たちの気分を盛り上げる。
そんな様子を窓越しに眺めながらルーシィは独り溜め息を吐き出した。

「もう、楽しみにしてたのに…信じられない」

年中お祭り騒ぎな妖精の尻尾もイベント時の気合いは相当なもので、「とにかくすごいんだ」なんて得意気に話していたナツの笑顔が脳裏を過る。
初めて大勢で、大切な人たちと過ごすクリスマスを誰よりも楽しみにしていたにも関わらず、朝起きれば全身を覆う気だるさに真っ青になった。
熱で散々魘された後だからか少し冷静になった思考は未だ不安定に感情を揺らして。
ぽつりと零した自身の言葉に涙が滲む。

「張り切って準備し過ぎたから…」

それとも入浴後にバスタオル姿のまま乳液を塗ったりしていた所為か。
作り置いたケーキもクッキーも後は焼くだけだったのに、なんて冷蔵庫に眠っているタネを思い浮かべて次々と心当たる原因に気持ちが沈んでいった。

「…あたしのばか」

楽しみにしていたのはナツやハッピーも同じだったようで。
今朝方やってきて気の毒そうな眼差しと声にならなかった口の動きに罪悪感が押し寄せてくる。
「一緒に過ごしたかったな」なんて寂しそうに呟いたハッピーの言葉が胸を突き刺して、「早く治せよ」と上の空で告げたナツの声が耳に残って離れない。
目が覚めた今は大分熱も引いて、ウェンディの回復魔法とミラジェーンのお粥に心から感謝した。
けれども、既に辺りは真っ暗になっていて、クリスマスも終わりを告げようとしている時間帯。
窓越しに眺めた街並みの電飾に込み上がる淋しさを抱えて、ルーシィは布団を手繰り寄せる。
不意にこんこん、と気遣うようなノックの音が聞こえて、反射的に肩を揺らした。
音のした玄関へ視線を向けて、高まる鼓動に深呼吸ひとつ。
食い入るように見つめた扉がきぃ、と静かに開く。

「…なんだ、起きてたのか」
「グ、レイ…」

どきどきと不安に駆られた想いは見慣れた漆黒にほっとして。
次いで、緊張の糸が切れたように声が震えた。

「…なに、泣いてんだよ」

彼はルーシィの様子に気付くと少しだけ驚いたように立ち止まって。
その表情が心細かった、とでも訴えるようにふにゃりと歪んだと同時に苦笑する。
ゆっくりと近付いて、ベッドの端へ腰を下ろすと見舞いに持ってきたであろう林檎を取りだしながら金糸を優しく撫でた。

「だって…クリスマスパーティー、楽しみにしてたのに」
「…それで寂しくなったのか」

ふっと零れ落ちた吐息が甘さを含んで笑う。
宥めるように触れる掌に小さく頷けば、グレイはくしゃりと金糸を混ぜた。

「じゃぁ、今度から一緒にいてやるよ」
「…え?」

平然と告げられた言葉に疑問のまま顔を上げれば、ひんやりとした指先が頬を撫でて。
触れた唇が甘い熱を絡めて熱く溶ける。

「好きだ」

低く響いた声はよく知っているはずなのに、まるで初めて聴いたような感覚に陥って。
茫然と冷たい感触と熱い余韻を残す唇へ手を当てれば、グレイは困ったように笑った。

「すぐ返事しろとはいわねぇよ」
「グレ、イ…」
「…けど、そういうことだから」

初めから答えなんてわかっているような言い方。
想いを告げたグレイの声が静かに響いて、驚きと戸惑いに心が動揺する。
喉に詰まった言葉が上手く出てこなくて、意味を成さない音が零れ落ちては止め処なく涙が溢れ出した。
混乱した思考は正常に機能しなくて、それでも真っ先に想い浮かんだ桜色が自身の気持ちを自覚させる。

「ごめ…あ、たし…」

抑えながら紡ぎ出す声は嗚咽して、くしゃりと撫でた掌がゆっくりと離れた。
優しく触れる指先が熱く流れる涙を掬っては火照った頬を冷やす。
闇夜に浮かぶ月が朧気に揺れて、縋るように見上げた光が小さく笑った気がした。



誰よりも好きだとは
言えなかった


→ おまけ
***
ギリギリにクリスマスで上げたグレル。
聖なる夜に切ないもん上げるなって感じですね、わかります。
言い訳すると本当はナツルにしようと思ってたんです…が、なんかルーシィは大事な日に風邪引くタイプだと思ったら熱→熱に浮かされる→冷やす→グレイ、という路線を辿り、更に、熱に浮かされるルーシィ超絶可愛い→フルバスター暴走→ちゅう→ナツル路線から外れる、という矛盾が生じたので…グレルで甘く纏めようと思ったんだけどゆんの脳内がグレルって気分じゃなかったのでグレ→ル→ナツになった所業。
天国と地獄的な。玉砕覚悟なグレイが好きです。可哀想。
拙宅のグレイはこんな役回りばっかです。すいません、すいません。
てことで、お詫びにもならないおまけを付けました。

I wish you a merry Christmas!
*2011.12.25.*


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