年に一度の聖なる夜。
常に騒がしいギルドはいつにも増して騒がしく、宴は延々と明け方まで続いた。
まだ騒いでいる仲間たちより一足早く、ギルドを後にして、ルーシィはひとり帰路に着く。
ナツと見に行けば、と言われたイルミネーションは結局見にいかずに、その姿は片付けられ始めていた。
少しだけ、淋しそうにそれらを眺めるその表情は、抱きあげているプルーにしか見られておらず。
パタン、と部屋に入ると、眠気と疲れでふぅとベッドに座り、徐々に熱の集まる顔を抑えながら左腕に着けられたブレスレットを眺める。
……―――今、ここにいられるのは、君のおかげだから―――。
口付けされた額に手を当て、彼の言葉を思い返した。
……―――これは、その感謝の気持ち。
どうしてロキはそうやって平然と素直な気持ちを口に出すことができるのだろう?
いつだって、本当に伝えたいことは言葉にすることができなくて。
無我夢中にならなければ動いてくれない身体。
必死になった時にしか口から出てくれない言葉たち。
本当は…
本当はね、
「あたしにできること、したかっただけなんだ」
ぽつり、と口から流れ出る小さな本音。
それって感謝されるようなことなのかな。
ただの自己満足じゃないのかな。
「本当は、あたしだって星霊魔導士なんだからもっと早く気付くべきだったのに…」
あんなに苦しんでいることに気付くべきだったのに…―――。
「でも僕が、君に救われたことに変わりはないんだよ?」
頭上から降ってくる声。
びっくりして見上げるとそこには、
「ロ、ロキ!?」
いつの間にいたのか、いつからいたのか、考えごとに夢中で気配を感じなかった。
「あ、あんた今の聞いて……?」
かぁ、と顔に熱が集まってくるのを感じながら問いただすと、
「ん?なんのこと?」
相変わらずいつものへらへらした笑顔で返答するロキ。
「……ていうか、どうしてロキが答えるのよ!あ、あたしは、」
ロキのことなんか別に、と一生懸命言葉を探すけれどそんなことでは動じない彼。
「うん、なんとなくね。僕のことを考えてくれているんだろうなぁって思ったら答えちゃった」
にこにことルーシィの隣に腰掛けて、いつものように触れてきたりもせずにただ優しい笑顔を向けてくる。
いつもの冗談のようなスキンシップがないことに戸惑うルーシィ。
なにか話さなきゃ、と思いながら過ったのは片付けられ始めていたイルミネーション。
「……ろ、ロキは、見に行ったの?」
「何を?」
「な、なにをって…イルミネーションよ」
「行ってないよ?」
「どうして?」
だって、ギルドに迎えに来ていた女の子たちと見に行かなかったの?
「ルーシィと行きたかったんだ」
「え?」
「言っただろ?君に会いたくて来ちゃったって」
くすり、と笑うと目を細めながらルーシィの頬に触れる。
「だ、だって…ギルドに来てた女の子たちは?」
赤く染まった頬を隠すようにそっぽを向いて、ギルドに来ていた女の子たちを思い浮かべた。
約束していたんじゃないの?
「ルーシィ、僕には君だけだよって何度言えば伝わるのかな?」
何十、何百、いくらでも君が信じてくれるまで言ったっていいんだけどね、なんて低い声で囁いて、金糸の髪を掬うロキ。
みるみる赤く染まっていく頬。
俯いて、必死に隠しているその姿が愛おしくて。
「ねぇ、僕の無実を聞いてくれる?」
掬った髪に口付けてみれば、ますます真っ赤になって俯いてしまう。
「ギルドに来ていた女の子たちの誘いは断ったんだ」
「え?」
きょとん、とあどけない顔が不意に上げられた。
「ギルドの外で別れて星霊界に戻ったんだよ」
苦笑するロキ。
「え!?」
今度は目を見開いて驚くルーシィ。
「せっかくのクリスマスだから、君と過ごしたかったんだ」
「で、でも……だって…」
「だから、今度は信じてよ」
息が触れるほどに近付いて、その瞳を覗きこむ。
それでも、なんて答えればいいか、なんてルーシィにはわからなくて。
「本当は、諦めて帰るつもりだったんだけど…」
明らかに困っているルーシィから静かに離れて、その手首を持ち上げる。
きらりと光るブレスレットに口付けをひとつ。
「僕とクリスマスやろうよ」
「……クリスマス、終わっちゃったわよ?」
「うん。僕とルーシィだけのクリスマス」
見て、とリボンに包まれた白い箱を出して、
「バルゴがケーキをくれたんだ」
儚さすら感じさせる笑顔でそう言うと、立ち上がってそれをテーブルに置く。
「嫌かい?」
「……まさか」
紳士的な振舞いで笑顔でそう言ったと思えば子供みたいにしょぼんとしながら聞いてくる。
くすり、と可笑しそうに笑いながらロキの側に近寄って、ちゅ、と可愛らしいキスを一つ。
「ごめんね、来年は一緒に過ごそうね」
いつも甘い言葉をくれるあなたに、甘いキスを。
そうして一緒にケーキを食べよう…―――。
fin.
***
お題*聖夜に融かした甘いキス
Back