かりかり、とペンの走る音が教室に響く。
不意に顔を上げればそこには穏やかで余裕そうな表情。

「ここ、わからない」

ペンを止めて教科書の問題文を指せば、身を乗り出した彼の独特の香りが鼻先を擽った。

「ん?…あぁ、ここはこうだよ」

指された文とさらさらと走るペン。
ご丁寧に簡単な例文まで付けて解説されるそれは悔しいけれど至極わかりやすい。

「…わかった」

一生懸命に頭を捻りながら続けて解いていく問題はさすがに難しく、何度目かの首を傾げる様にくすり、と笑みが零された。
思わず顔を上げて眉を顰めれば、言い訳のような言葉が紡ぎ出される。

「いや、あんまり一生懸命だから…」

可愛くて、なんて甘い台詞。
同級生の女の子たちは口説き落とせても自分は引っかかるつもりはない。
す、と視線を逸らせば再び零れる笑み。

「なによ」
「うん…その可愛い表情を見るのもあと数日か、と思ってね」

少しだけ、さみしそうに笑う彼に一瞬だけズキン、と胸が痛んだ。
あと数日で卒業式。
生徒会で知り合ってから一年。
なんだかんだとほとんど毎日を一緒に過ごした気がする。
夏休みの合宿、文化祭、クリスマスパーティ、大晦日、いつもいつも側にいて、支えてくれていた。
無意識に震える指に力を入れれば見透かされた様ないつもの笑み。

「寂しい?」
「…な、何言って、」

誤魔化そうと咄嗟に出たのは相変わらずの可愛げのない言葉。

「や…めてよ、なんであたしが寂しいのよ」
「だって、僕は寂しいよ」

戸惑いを含んだ声に被せて間髪入れずに告げられるその一言。
視線が交わる瞬間にそのまま呼吸も止まってしまうかと思った。
いつものふざけたような笑顔とは想像もつかないほどに真剣な眼。
絡んだ手も振り解けずに、近づいてくる仕草を見守って、瞼を閉じる。
ふ、と微かに零れる吐息。
次に唇が触れる感触。
絡まり合う舌の熱。

「っ……ん」

顎に垂れる唾液を拭う余裕もなく後頭部を引き寄せられて、深く、深く。
舌を絡めて、喉を流れる二人分の液体。
零れ落ちる情欲の跡。
「…っ…ぁ」

とん、と弱々しく返す抵抗も効果を見せず。
小さく零れる吐息が息継ぎの合間に重なって夢中になる。

「ふ…続きは卒業してからだ」

余裕な笑み。
卒業まではここまで。
内に眠る熱を誤魔化して小さく安堵の息を吐いて、心を落ち着かせた。


fin.
***
お題使用:【教師と生徒の恋模様】:卒業までは

挑戦設定:『先輩と後輩』の組合せで『R12で可愛くちゅー』を目指して頑張りましょう。


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