※ヒューズ+ルーシィ(アースヒューズくん捏造)
混沌に紛れた誘惑 の [前編]
***
とある商業ギルドに所属しているヒューズは仕事の為、マグノリアへ来ていた。
取引は思いの外順調に進み、あとは契約書のサインを確認し、打ち合わせを終えれば自身の仕事は終わる。
しかしながら、そこまで小さな仕事でもない為、日帰りで終えることは叶いそうもなく、数日間は滞在しなければならなそうだった。
初日の挨拶を終え、ヒューズは荷物や仕事道具を宿へ置くと息抜きがてらにと街へ出る。
擦れ違う人々は笑顔で、活気に溢れている街だ、と思った。
同時に、数日前に交わした会話を思い出す。

「………ジュードさんの娘がいるんだっけか」

どこへ行くでもなく、ふらふらと街を歩きながらヒューズは独り言ちる。
普段は寡黙な程、口を開かない彼がこの街の名を挙げた時だけ珍しく笑みを零した。

『仕事ばかりだった所為か今更どう接していいかわからないんだ』

そう微笑んだ彼は紛れもなく父親の顔をしていて。
仕事をしている時の姿と掛け離れた印象を抱かせる。
然して興味のないような相槌を打ちながらヒューズは人の雰囲気を簡単に変えてしまう『家族』というものに惹かれた。

「―――そうは言っても、何気にスッゲェ広いかんなココ」

考え込むように立ち止まり、辺りを見回すと数メートル先に覚えのある少女が視界に入る。
靡く金糸がきらきらと陽に透けて、不思議と懐かしい感じがしたのは果たして偶然だったのだろうか。
追うように本屋へ足を踏み入れるとそこには自身の背よりも高い位置の書物を取りたそうな彼女がいた。
伸びた手の甲には桃色の紋章。

「………妖精の尻尾か」

ぼそりと呟いた声は静寂に消え、目の前の少女が『ルーシィ』であると確信したヒューズは出来るだけ自然を装って声を掛ける。
指が当たっていた本を取り出すように手にして。
タイトルを視認すると関連作品を思い浮かべながら手渡せば、何故か彼女は呆気にとられたように眼を見開いていた。
その表情があまりにも間抜け面で、瞬間的にヒューズは噴き出しそうになる。
込み上がる笑いを抑えながらもヒューズは有り触れた会話を紡ぎ出すと、彼女はまるで知り合いにでもあったような口調で言葉を返してきた。

「俺のこと知ってるの?」

疑問をそのままに問いかけると彼女は慌てて首を振る。
そうして困ったように笑みを浮かべた。

 (―――写真で見るよりも可愛い……かな、多分)

ヒューズは瞬時に記憶を整理すると、軽快な口調で彼女を誘う。
強引になり過ぎず、あくまで紳士的な態度で、笑顔を崩さないように。
最近読んだ雑誌のコラムを思い出しながら彼女の手元から本を取ると、言葉に詰まって茫然としている彼女を余所に会計を済ませて、包装されたそれを手渡した。
漸く思考が動き出した彼女からはたどたどしくお礼が告げられて。
ころころとわかりやすく変化する表情を眺めながらヒューズはにっこりと笑みを浮かべる。
警戒している割にはガードが甘い。
それがこの時の印象。

「この街初めてなんだ。良かったら案内してくれない?」

ひくり、と引き攣った頬。
軽快な男は苦手か、なんてぼんやりと考えていると呆れたように溜息一つ。
かちゃりと鳴った鍵の束を一瞥すると口許を緩めた。

「いいわ。その代わり奢りよ?」
「勿論」

悪戯に付け加えられた条件を笑顔で受け止めて。
緩やかに歩を進めれば、次第に本の話題ばかりが続く。
そのひとつひとつに相槌を打ちながら横目で覗く表情は楽しそうで。
到底『どう接していいかわからない』タイプには見えなかった。
ヒューズは笑顔を振りまく彼女を観察しながらジュードのことを伝えようかどうしようか迷っていた。
それ以前に、自己紹介もしていない間柄に違和感を感じていた。
自分が彼女を知っているのは話に聞いていたからだが、彼女が自分を知っていることが不思議で仕方なかった。
聞こうか聞くまいか。
ひとまず、店に入ってから聞くことにしようと決めた瞬間。

「オイ」

不機嫌さを隠しもしない真っ直ぐな声が耳に届く。
声がした方を振り向くと隣にいた彼女が驚いたように息を飲んだ。
桜色の髪、鱗柄のマフラー。
まるで不審者でも見るような眼つきで探るように近づいてくる彼にヒューズの思考はひとつの結論を導き出す。

 (恋人…?いや、でもなぁ……それにしては微妙な空気―――あぁ、そうか)

「なんだか時間が掛かりそうだからまた今度」

小さく笑みを零すと不思議そうに彼女が見上げてきた。
その頭へ手を乗せて、一層眉を顰めた彼へにっこりと笑顔を模る。

「嫉妬かよ」

声というにはあまりにも音にならない声でそう呟いて。
軽やかな足取りで踵を返すと忌々しげな唸り声が聞こえた。
どうやら彼は耳が良いらしい。
ヒューズは悪戯に喉を鳴らすと一度振り返り、仲が良さそうに戯れる桜色の少年と金糸の少女を記憶した。


***
アースヒューズくんとルーシィの出逢い編《前編》。

企画への御協力ありがとうございましたー!!!


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