※Bixlow+Lucy(+Natsu)
why he`s me[続編]
***
あからさまな敵意。困惑と嫉妬。
手に取るように見えるそれはずっと昔に諦めてしまった気持ちのようで。
ラクサスを慕う感情とはまた別のモノだった。
遠い昔に過ぎ去った激情を見ていると碌なことがない。
そうわかっていながらもつい視線がそこへ向かってしまう。

「あんまりからかい過ぎるのも良くないぞ」

からりと氷が解けたグラスをテーブルへ置くとフリードが窘めるように口を開いた。
子供相手に大人気ない。
そう言いたげな視線を横目にビックスローは喉を鳴らして。

「……まぁ、そう言うなよ。ナツがあまりにもイイ反応をするもんでつい、な」

にたにたと緩んだ口許とは裏腹に仮面で覆われている眼が冷たく光る。
呆れたように溜息を吐き出すフリードを無視して、ビックスローは再び金糸の少女へ視線を向けた。
金と銀の鍵がかちゃりかちゃりと揺れて、同時に短いスカートの裾がふわりふわりと靡く。
そうしてピタリと止まったかと思えば、また同じように揺れては舞うように靡いた。

「ビックスロー」
「あ?」
「何を見てる?」
「……そりゃぁ―――あ。」

フリードの問い掛けに答えようと口を開いて、ふと自身の視線がどこへ向いていたかに気付く。
視界を広げると、ルーシィがクエストボードの前を往復している様が映った。
その後ろでは不貞腐れたようにテーブルへ突っ伏しているナツの姿。
ビックスローは愉しそうに口角を上げると、がたりと徐に席を立つ。
そうしてボードの前で唸っている少女へ近付くとその手に持っている依頼書をひょいと取り上げた。

「廃屋の片付け、掃除……5万ジェニー」
「ちょっ!!?何すんのよっ!!!」
「嬢ちゃん……仕事に困ってんのか?」
「いいの!ひとりで行くんだから!!!」
「つってもなぁ……」

読み上げた内容が如何にも誰もやりたくないようなものであることにビックスローは思わず気の毒そうにルーシィを見遣る。
ボードを見返せば、他にも割の良さそうな仕事はいくつかあった。
討伐系の仕事は相手の力量にもよるが大凡割の良いものばかりだ。

「あぁ、家賃に困ってるんだってな」
「な、なんでそれを!?」

ルーシィの金欠を知らない者は凡そギルド内にはいないだろう。
それほどまでにこの少女は常に「お金がない」「家賃が」と嘆いている。
そんな様子をビックスロー自身、幾度となく見ていた。
そうは言っても腑に落ちないことがひとつ。

「つい先日、仕事の最中に会ったような気がするんだけどありゃどうしたんだよ」
「あ、あれは……その、グ、グレイとナツが……」

言いにくそうに視線を泳がせて、紡がれる言葉。
詰まった声は一気に「やり過ぎなのよーあいつらー!!!」と泣き言に変わった。

「これじゃぁ今月の家賃払えないからこうなったらひとりで行ってやろうと思ったけど、まだあんまり魔力も強くないし、ロキはたまに出てこないし、ひとりで出来るにしてもリスク高いのは無理だし……」

次第に愚痴になっていく様を黙って聞きながら後ろで狸寝入りしているナツへ視線を向ける。

 (なるほどな……これは、聞くに耐えられなくての不貞寝ってやつか)

大体の状況を把握するとビックスローは口許を悪戯に歪めるとぷりぷりと怒っている少女の頭をぽんぽんと撫でた。
普段はふざけてばかりいるビックスローの思いがけない行動にルーシィは目を丸くして。
呆気にとられるように口を開けば、仮面から覗く唇が弧を描く。

「ここに割の良さそうな仕事がある」

にやにやと楽しそうに紡がれる声は軽快で胡散臭い。
けれど、ぺらりと差し出された紙面に記載された報酬額は確かに魅力的だった。

「折半しても家賃2、3ヶ月分くらいは余裕で払えそうだろ?」
「そ、そうね……」
「じゃ、俺と一緒に仕事でもどーだ?」
「―――…何企んでるのよ?」

歪んだ口許は変わらず、周囲で浮いてる人形たちは『シゴト』『シゴト』『ドーダ』『ドーダ』と繰り返している。
実力的には一人で行っても何の問題もなさそうな内容の依頼。
人を小馬鹿にした態度を取っていても雷神衆のひとり。
ルーシィは眉間に皺を寄せて、訝しげに仮面の男を見上げた。

「コスプレ嬢ちゃん……すぐ人を疑うって哀しい行為だぜ?」
「コスプレって付けないでよっ!!!」
「まあまあ……行く先々の仕事で色んなモン破壊しては報酬減らされてる嬢ちゃんが可哀想だと思って、な」
「同情なのね……あたしじゃないけど」
「………ま、そういうことにしとくか」
「でも、こういうの…ビックスローひとりで行った方が楽なんじゃないの?」
「そこはまぁ、面白そうだから」
「は?」
「あ、いや……どんなコスプレが見れんのかってな」

じわじわと背中に貼り付く熱。
視界の端に映るその姿は相変わらずテーブルに突っ伏したままで。
目の前の少女はそんな温度の変化には全く気付いていない。
鈍感なのか、お金にしか目がないのか。
差し出した依頼書を食い入るように眺めるとぽつりと小さく呟いた。

「…………折半?」
「あ?おー…不服ってわけじゃないだろ」
「大勢相手だと逆に足手まといになりそうなんだけど」
「ま、そこは分担作業ってことで」

ひとりでも問題はないが、少しちょっかいを掛けるだけでギルドの一角を熱くする程の反応。
ルーシィを連れ出した時は一体ナニをしてくれるのか。
予想できない行動ではあるが『面白そう』は確約されたようなモノ。
正直協力代と仲が拗れた後の修復代のお詫び前払いとしては十二分過ぎる程だった。
にやにやと性質の悪い笑みを浮かべているビックスローを前にルーシィは逡巡するように視線を泳がせて。
テーブルに突っ伏しているナツをじっと眺めた後、「まず家賃よ」と繰り返すとビックスローの両手を包むように掴んだ。

「条件があるんだけど!」
「ハイハイ」
「危なくなっても見捨てないでね!!!」

仮面越しに注がれる真っ直ぐな琥珀の瞳があまりにも真剣過ぎて。
ビックスローは一瞬、呆気に取られて言葉を失うが、数秒の後、噴き出すように笑った。
子供をあやすように金糸の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜて。

「嬢ちゃんひとり置いてくほど人間落ちちゃいねぇヨ」

くっく、と喉で笑いながらそう答えれば、むぅと不服そうに頬が膨らむ。
その間も引っ込めるタイミングを失った手は頭を撫で続けていて。
前髪から覗く琥珀色が金糸に透けて、あどけなさに色が付いたみたいだった。

「絶対よ!」

気を取られた刹那、満面の笑みに変わったそれは言葉を失わせて。
柄にもなく模った笑みも消されてしまう。
形だけで肩を竦めるのが精一杯だった。
そんな様子なんて気にも留めずに、彼女はいつものカウンターへ戻るとミラジェーンへ嬉しそうに話掛けている。

「困った嬢ちゃんだな」

小さく零した声は喧騒に埋れて。
らしくない自分の行動にビックスローは盛大な溜息を吐き出した。


***
『why he's me』の続き。

企画への御協力ありがとうございましたー!!!


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