「ルーシィ、今日暇か?」

ひまだろ、と終礼が終わったと同時にナツが声をかけてきた。

「暇だろって…あのねぇ」

溜息交じりにじとり、と睨むと悪気のない満面の笑みが返される。

「バスケやりに行こうぜ」
「バスケかぁ…でも、今日はだめ」
「あ?なんでだよ」
「ふふ、デートなの」
「はぁぁ??!」
「あんたも遊んでばっかいないでたまには勉強しなさい!また明日ね」

大層驚いた声を上げるナツを横目に悪戯な笑みを浮かべてルーシィは教室を後にした。
ナツの愕然とした表情を思い出しながら浮足立って階段を下り、下駄箱で靴を履き替えていると、カツン、と足音が聞こえ、声が掛けられる。

「ルーシィ」
「あ、エルザ」

待った?と振り向いて、笑顔でエルザに近寄った。

「いや、大丈夫だ」

すまないな、なんて伏し目がちに言われてルーシィは苦笑する。
先ほどナツに放った発言の『デート』相手は、このエルザだった。
彼女は、ふたつ年上でこの街に引っ越してきた日に色々と世話を焼いてくれて以来、親しくしている。
今日は、最近付き合い始めた彼氏とのデートらしく、どうしてもふたりだと緊張するので同行して欲しいと切実に頼まれ、ふたりのデートに付き合うことになったのだ。

「気にしないで。考えてみたらエルザが付き合うことを了承した相手って興味あるもの」

しっかり者のエルザ。
秩序に厳格で、時に厳しく、時に優しく、頑張り屋で可愛い彼女の本当に珍しい頼みごとだ。
どんな内容だろうと断るつもりはなかった。
まさかデートに付き合ってほしいとのことだとは思いもよらなかったが。

「待ち合わせ場所ってどこなの?」
「ああ、駅前のカフェだそうだ」
「それって最近新しく出来たところかな?」
「らしいな、そのようなことを言っていた」
「わぁ!あそこのケーキ、すごく美味しいんだって!」

ルーシィが心底嬉しそうに喜ぶ。
その表情に、くすり、と漸くエルザが微笑んだ。

***

カラン、と店内に入り、待ち合わせ相手を探すエルザ。
どうやらまだ来ていないようだった。

「窓際がいいんじゃないかな?」

わかりやすいし、とルーシィの提案を受けて窓際のテーブルに着く。
すると、ちょうど男子高生が二人、店員に案内されてきた。

「エルザ?」

きょとん、と目を丸くしてエルザを見やるルーシィ。
デートって言ってなかったっけ、などと疑問に思いながらも同じテーブルに着く二人を眺める。

「貴様、どういうつもりだ。ジェラール」
「いや、これには訳が…」

どうやらエルザも知らなかったらしい。
鬼のような形相で男を睨みつけている。
ルーシィは、この人がエルザの彼氏か、と納得して運ばれてきた紅茶を手に取った。

(じゃぁ、この人は誰だろう?)

同じように黙って二人のやり取りを知らん顔している彼を見やる。

(だいたい、男が彼女のデートに友人を連れてくるなんて女々しいわ)

喧嘩とまではいかないが、先ほどまで幾分か笑っていた彼女の機嫌を悪くした元凶に悪態をつきながらその男を睨みつけた。

「なんだ、普段賺してる癖に女の尻に敷かれるなんて情けねぇな」

ふん、とそれまで黙ってやり取りを眺めていた男が口を開く。

「おい、コブラ」

やめておけ、とジェラールが口にしたが、時既に遅し。
エルザは彼を敵と見なした。

(せっかくのデートなのに…)

はぁ、と呆れながら溜息をひとつ。

「エルザ、とりあえずケーキ食べようよ」

ほら、苺あげる、とお皿に乗せてやると照れたようにほんのりと頬を染めてお礼を口にする。
その反応ににっこりと笑顔で答えて、ジェラールにちらり、と視線を送った。

「ここのケーキは評判がいいんだ」

エルザの機嫌が良くなったことに気づき、安堵した表情でジェラールが言葉を続ける。

「エルザいちご好きだもんねー」

よかった、と思いながらエルザに笑顔を向けたが、次の瞬間、平和になりかけた空気が壊された。

「お前、女の機嫌とるなんて疲れねぇか?」

一連のやり取りに大袈裟に溜息を吐いてコブラは席を立つ。

「思ったよりもつまらなかったし、帰るわ」

じゃぁな、と片手を上げて背を向けた瞬間、ルーシィは勢いよく立ちあがった。

「ちょっと!あんた一体何しに来たのよ!」

失礼なんじゃないの!と詰め寄る。

「あ?お前だって呆れてただろ」
「なっ…あ、呆れてなんかないわよ!」
「嘘だね、せっかくのデートなのにって顔に書いてあったぜ」
「〜〜〜っ…あなたね」

ふん、と勝ち誇ったコブラに、かぁぁ、と頬を赤く染めて言い返そうと口を開いたところで制止の声が入った。

「ルーシィ」
「コブラ」

同時に、エルザとジェラールが立ちあがる。

「もういい。ジェラールも、何か訳があったのだろう」
「いや、俺がちゃんと断らなかったのが悪かった」
「いいんだ。しかし、今日はもう帰らせてもらう」
「…ああ」

短いやり取りの後、エルザがルーシィに微笑んで、背中を促した。
ルーシィは、エルザから鞄を受け取って彼らに背を向けたが、くるり、と振り向いて、

「あなた、女の子に嫌われるタイプでしょ!」

べぇ、と舌を出してそう言い捨てると、エルザと共に店を出ていく。
店内に残された二人は唖然と顔を見合わせて。

「なんだ、あの女」
「あながち間違いではないんじゃないか?」
「あぁ?喧嘩売ってんのかてめぇ」
「だが、嫌いじゃないだろう?ああいったタイプは」
「…うるせぇな」

そんなやり取りをしていた。


fin.
***
冒頭のナツは完全に個人的趣味。
なくてもいいけど無駄にナツを出したかった…。
てかコブラ……お喋りなようであんまりお喋りじゃない。
男同士だと弁舌になるタイプ?違う気がする。
でもいいんだ。ちょっと満足したんだ!
これに懲りずに街中でばったりコブルーとかまた書いちゃうんだ。
こんなマイナー過ぎるCP読んで下さってありがとうございました!


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