「なにやってんだ?」
「ルーシィ、ひとりでかくれんぼ〜?」

素っ頓狂な声を上げて、ギルドの隅で小さくなっている彼女を見る桜色の髪の少年。
ぷくく、と可笑しそうに両手で口元を押さえる青い猫。

「ナ、ナツ!ハッピー!」

ぎょ、と驚いたように眼を見開いて、後退りするルーシィ。
ナツはその様子に違和感を感じながらも手を伸ばした。

「お、い……なんで逃げようとすんだよ!」
「い、や!……こ、こっちにこないでよーーー!!!」
「な、なんだ?」

脱兎のごとく、逃げていくルーシィ。
ぽかん、と口を開けて、ナツは走り去った彼女を目で追う。
脅えた目。勢いよく引かれた身体。
なにが起こったのか、なにが起こっているのか、状況が呑み込めない。
しかし、逃げられたことに対して少なからずショックを覚えた。

 (いやって、なんでだ?こっちにくんなって、なんだよ。意味わかんねぇ。)

「なにか変なものでも食べたのかなぁ?」

ハッピーが首を傾げてそう口にする。
ナツは、ぐるぐると浮かぶ疑問に呆然と立ち竦んでいた。
すると、くすくすと笑い声が聞こえてくる。

「ルーシィはね、今異性の側には近寄れないのよ」
「は?」
「近寄れないって、ルーシィなにかしたの?」

ミラジェーンが可笑しそうに笑って言った。
その言葉にハッピーは不思議そうに首を傾げる。

「うーん……ルーシィがしたんじゃないんだけどね、ちょっと…」

「試作中の魔法薬を被っちゃったのよ」と困ったように眉を下げて。
ミラジェーンは、苦笑しながら原因を教えてくれた。

「それで、なんで近寄れないんだ?」
「なにが起こるかわからないんですって」
「ふうん」
「今わかっているのは、異性に触れるとなにかが起こるってことだけなの」

「それでさっきからルーシィったら逃げ回ってばかりなのよ」と呑気に笑うミラジェーン。
ああ、と納得してルーシィへ視線を向けると、確かに近付いてくる男に対して、先程と同じ態度で逃げまわっている。

 (忙しい奴だなぁ)

「ねぇねぇ、ナツ!」
「んぁ?なんだ、ハッピー」
「ルーシィからかいに行こうよ」

うきうきと目を輝かせてハッピーが誘う。
にやり、とつられて笑うと悪戯を企む子供さながらにわくわくして、並ぶテーブルを飛び越えて、ルーシィの側へ近寄った。

「ルーシィーーー!」

ハッピーがルーシィの胸へ突っ込んでいく。
ぽすん、となんなくキャッチされる青い猫。

「ハ、ハッピー?」

ルーシィがきょとん、としながら腕の中に受け入れた青い猫を見る。

「あれぇ?オイラは触れても何もないの?」
「え?あ、当たり前でしょ、猫には効かないわよ」
「じゃぁ、俺が触ったらどーなんだ?」
「え?」

楽しそうにルーシィへ手を伸ばすナツ。

「き、きゃぁぁーーーー!!」

「……っと」

振り向き様に視界に入ってきた桜色。
反射的にぶん、と腕の中の青い猫を投げつける。

「ひ、ひどいよぉ。ルーシィ」

ばすん、と投げられたハッピーがぐるぐると目を回して、ナツの胸でくたっとしながら抗議した。

「虐待すんなよなー」

冗談通じねぇな、なんて溜息混じりに呆れ声でルーシィを見るナツ。

「ち、近寄らないでったら!」

そんなことに構っている余裕のないルーシィは、じりじりとナツ達から離れようと後ずさる。

「あ、オイ」

後ろ、と指すナツに釣られてルーシィは後ろを振り向く。
そこには、グレイがいた。

「―――っ!!」

ルーシィは、勢いよく身を引くが、反転させた身体の先には、ナツがいる。
誰もいない方へと動くが、急激な方向転換の繰り返しで、ぐらり、と目が回り、あたりの風景がスローモーションで流れる。
倒れる、と悟った瞬間、痛みを覚悟して、ルーシィはきゅっ、と強く目を閉じた。
どすん、と衝撃音が聞こえてくるが、ルーシィの身体に痛みはない。

「……大丈夫か?」

そろり、と目を開けると、その人と目が合う。

「あ……い、や……きっ………んぅっ」

動顛して叫びかけたルーシィの唇をナツは、半ば反射的に塞いだ。
空いている腕をぶんぶん振り回して、彼から離れようとするルーシィ。
しかし、彼女の後頭部をしっかり抑えつけて離さないナツ。

「〜〜〜っ……んんっ」

ルーシィは、どんどん、とナツの胸板を叩いて酸欠を訴える。
その様子に、ぺろ、と唇を一舐めしてから漸くルーシィから離れると、ぺたぺたと彼女の肩や頭を触れ始めた。

「……な、なにすっ……」
「なんにも起こらねぇな」
「へ?」
「触られるとなんか起こるんじゃねぇのか?」
「あ。」
「効果が切れたんだろ」

見上げると、グレイが呆れ顔で見下ろしてくる。
ほっとしたのも束の間で、現状を理解していくと共に赤らんでくる頬。
目の前には、ちぇ、と口を尖らせて残念がっているナツの顔。

「ナ、ナツ、い、今の……なんで…っ」

ルーシィは、唇を抑えながら羞恥に耐えるように肩を震わせる。

「あ?今のってなんだよ」
「な、なにって……くちっ……びるに…」

かぁ、と頬を赤くし、俯いてそう小さく呟いた。

「あー、だってルーシィの叫び声うるせぇ…―――ぐぁっ!!?」

言い終わる前に、固く握りしめた拳を振り上げる。

「信じらんないっ……ナツのばか!」

素早く立ち上がると、ルーシィは耳まで真っ赤に染めてギルドの出入り口へと走っていった。


***

「い、ってぇ」
「自業自得だろ」

殴られた顎を抑えながら起き上がるナツを見下しながらグレイは溜息を吐く。

「あい、今のはナツが悪いです」

ハッピーもグレイと共に溜息をつく。

「うっせぇ」

ナツは、むすりと不機嫌そうに眉を顰めながら首元のマフラーを引き上げた。

まったく、しょうがねぇな、ルーシィが気の毒、なんてことを呑気に考えていたグレイは、ふと視界に入ってきた赤い耳を見て噴き出した。

「ぶはっ……くっ、おま、ばかだろ」
「ナツ……顔赤いよ」

ルーシィみたい、とハッピーが零す。
普段見慣れない光景にグレイとハッピーは視線を見合わせて、笑い出した。

「笑うんじゃねぇよ!」
「くっくっ……無理。」
「うるせぇ……くそ氷野郎がっ」

ナツは口を尖らせて反発するが、尚も赤い顔がついにふたりの笑いを止めることはなかった。


fin.
***
ヴェラーノ:アル様へ相互記念として書かせていただきました。

逃げ回るルーシィ。
思い出して照れるナツ、そしてそれを笑うグレイとハッピー。
甘甘を書こうとしたのですが、初々しくなっただけだった;;
しかも、薬の効果きれちゃったよっていう…。
ルーシィにナツのばかーて走らせたかった。
お気に召すか不安でいっぱいですが、よければ貰ってやってください。

アル様のみお持ち帰り可。
相互、本当に本当にありがとうございました!
これからもよろしくお願い致します。


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