ふぅ、と息を吐いてルーシィは、ころん、とペンを置く。
窓の外は振り続ける雨音を強調するかのように灰色の空が広がっていた。
雨の日は憂鬱。
晴れ渡る青空が心のもやもやを晴らしてくれるのならば、雨の日の灰色の空は心に引っかかる不安を引き摺りだすようだ…―――。
執筆が進まないことを諦めて、ふぅ、ともう一度溜息を吐いて机に突っ伏していると、コンコン、と窓から見慣れた桜色の髪が見えた。
じぃ、と眺めているとぱたん、と静かに入ってくる。

「…いつも扉から入ってきてって言ってるじゃない」

無遠慮にぽたぽた、と雨粒を滴らせながら部屋へと入ってくるその姿に、ルーシィは何度目かの溜息を吐きだした。
カタン、と立ち上がり、タオルを取り出して彼へと手渡す。

「なんだよ、元気ねぇなぁ」
「ハッピーは?」
「シャルルんとこ」

相変わらずね、なんて答えながら温かい飲み物を取りにキッチンへと足を向けた。
その後ろ姿を横目にナツは、濡れた衣服を乾かす。

「ルーシィ天気悪ぃと引き籠るよな」
「あのね、」
「なんだよ?」
「…雨の日って気分が憂鬱になるの」

あんたにはわからない繊細な感情よ、と溜息交じりに答えると、ナツは眉間に皺を寄せた。

「とにかく、ナツに構う元気ないからそれ飲んだら帰ってよ」
「残忍な奴だな」
「温かい飲み物出して持て成してるのにその言いようって」

呆れてじとり、と睨むと、ナツはにかっと満面の笑みを浮かべる。

「俺、ルーシィがいれば気分悪くなんねぇぞ」
「は?」
「ルーシィも俺といたら元気出んだろ」

な、と向けられた笑顔には一点の曇りもなく、確かに沈んだ心が浮き上がってくるのを感じた。

「な、なに言ってんのよ」

それでも素直に受け入れることはできなくて、熱が上がってくる顔を隠すように俯く。

「なんだよ、顔赤ぇぞ?」

その様子に、怪訝な表情を浮かべながらルーシィへと近寄ってその頬に手を添えた。
こつん、と額を合わせるが、元より高い体温故に相手の熱など図れるはずなどなく。
互いの吐息がかかる近さで大丈夫か、なんて平然と聞いてくる。
鳴り響く心臓の音を隠すようにその胸板を押し返すが、ナツは逆に両手を背中へと回してぎゅぅ、と抱きしめてきた。

「……すげぇ音」

ぼそ、と呟いたその声はいつもよりも低く、掠れていて、照れているのだと感じられる。
そんなナツが愛おしく感じて、もどかしくも感じて、下がった腕をその背中へと回してきゅ、と小さく掴んだ。

「ほんと、デリカシーないわよね」

睨むようにその顔を眺めてやるとナツの頬が仄かに赤みを帯びているのに気付く。
珍しいその表情を食い入るように眺めていると、その視線に耐えかねたのか、ふい、と顔を横へと向けた。

「あんまジロジロみんなよ」
「……珍しいものみたわ」
「うるせぇな」

む、と口を尖らせてはいるものの絡められた腕が離される気配はなく。
ぽすん、とその胸に頭を預けると安堵の息が口から洩れる。

(安心する…―――)

とくん、とくん、と平常に脈打つ心臓の音が耳から入ってきて、ひどく気分が落ち着いた。

「ルーシィ」
「……なぁに?」
「あいしてる」
「―――っ!?」

ばっ、と反射的に離れようと身体を動かしたが、びくともせず、ナツの顔を見ることさえできない。

「…な、なに言って、」
「あいしてる」

平然ともう一度繰り返される声。
動揺なんて微塵も感じられなくて、ゆっくりと確かにその言葉を繰り返した。
かぁぁ、と顔中に集まってくる熱で何も考えられなくなる。
背中を掴んでいる掌がじんわりと湿ってきて、高鳴る鼓動は身体中に鳴り響いていた。
落ち着くために小さく深呼吸をするがその唇は微かに震えている。

「……い、意味わかってるの?」
「ん?あぁ」
「ほ、本当に?」
「うん」

つん、と鼻に痛みが走って、次いで目頭が熱くなる。
生理的に溢れ出す涙が頬を流れた。
ナツの胸に頭を押し当ててふ、と唇から吐息が漏れる。

「ずっと一緒にいようってことだろ?」

当然のように降ってきたその言葉にどこかわかっていたようなくすぐったい気持ちになった。

「……違うわよ」

くすり、と笑って、もう一度、ぎゅ、と今度はしっかりとナツを抱きしめる。

「……けどルーシィもおんなじ気持ちだろ?」

微かに身動ぎするナツからは少しだけ焦ったような声色が加わった。

「うん」

小さく答えたその言葉がしっかりと聞こえたのか返事の代わりに腕の力が強まる。

「おう」

雨の日はなんだか憂鬱。
だけど、ナツがいてくれるなら、温かい気持ちになれる。

それはきっと…―――。


fin.
***
愛してるを3回で:うめ子様へこっそりと相互記念として書かせて頂きました。

for a rainy day:(将来)まさかの時のために.

リクエストに伺う勇気が出ず、こっそりという形を取ってみました。
図々しいくせに変なところで尻込みしてしまう…。

うめ子さまのみお持ち帰り可。
本当に本当に相互ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します!


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