あの日からよく見掛けるようになったとは思っていた―――。
エルザに連れられたカフェで出逢ったあの男を。
偶々視線をやった公園に知っている顔を認識した。
通り過ぎればいいのに、何故か近づいて、声を掛けてしまう。

「公園とか似合わないわね」

ケーキ屋だって似合わなかったけど、なんて言葉は飲み込んで。

「あ?」

噴水の脇にあるベンチに座っていた男は、ふいに被さってきた人陰に無愛想に反応した。

「一人で鞄の中探ってるとか怪しさ満点よ」
「…うるせぇな」

寡黙、とはいかないまでも一々言葉数が少ない。
不良のような見た目に似合わず、進学校のブレザー。
乱暴な言葉遣いの割には怒鳴るような行為はしない。
見た目と中身の差に興味を惹かれるのは自然なことである。

(だって怪しいんだもん。気になるわよね!)

ルーシィはひとり気になる理由を正当化して、ひょい、と身を屈めた。

「なにか隠すようなものでも入ってるの?」

覗きこんだそれには教科書が乱雑に入っているだけ。
なにか、なんて入っている様子はなく、少しだけ残念な気持ちになる。
きらり、と陽に反射して光った小さな光には気付かなかった。

「あ?お前そんなに俺のこと気になるのか?」
「なっ…べ、別に気になんかなってないわよ!!」

図星だ、と瞬時に理解しても素直に受け入れるなんてことは到底できない。
咄嗟に「違う!」と捲し立てて、熱が頬に集まることから意識を逸らそうとする。
なのに、

「じゃあ何でお前そんなに心臓の音速いんだ?」

平然と言ってのけるこの男が心底憎たらしいと思った。
意地の悪そうな表情でもしていればからかわれているのだと思えるのに。

(そんな真面目な顔して訝しげに見ることないじゃないっ…!)

「し、心臓の音なんて…な、何でアンタにわかるのよ!!」
「は?普通わかるだろ?」

馬鹿か、と溜息交じりに答えられて、胸の内がもやっとする。
見下すような反応。

(なによ、自分は進学校だからって自慢したいわけ!?)

「わかる訳ないじゃない!!」

頭おかしいんじゃないの、と付け加えるときょとん、と眼を丸くするコブラが視界に入った。

(ていうか、本気で言い返すことがばかなんじゃ…)

言ってやった、と満足した後に押し寄せた冷静な考えに、慌てて顔を逸らす。
コブラは、何を言うでもなくただじっとルーシィを眺めているだけだった。
流れる沈黙にはぁ、と小さく溜息を吐いて、この場を離れようと背を向ける。

(だいたい友達でもないのにわざわざ話しかけることがそもそも間違いだったわ)

手に取るように伝わってくる不思議な感覚にただじっと耳を傾けているとくるり、と向けられた背が視界に映った。
その腕を無意識に掴んでみる。

「な、なによ」

揺れる瞳は真っ直ぐに自身を映し出していて心地良い。

「気になるものは確認するのが一番だと思わねぇ?」
「は?」
「気になんだろ?」

俺のこと、と続ければ、頬を真っ赤に染めて肩を震わせた。

「き、気になってなんか!」

口から発せられる声とは別に微かな音が、想いが、鮮明にはっきりと聞こえる。

(気付いてねぇのか?こいつ)

はぁぁ、と安堵とも呆れとも取れる長い溜息を吐くと膝の上に頭を伏せた。

顔が熱い。
染ったみたいだ。
この感覚は、知っている。

頭に過ったその姿を思い出して、勢い良く立ち上がって、掴んだ腕をそのまま引く。

「ち、ちょっと!」

どこ行くのよ、と焦りながら声を上げる彼女の言葉を無視して、帰りを待っている愛しい存在の元へと歩を進めた。

その頬は微かに朱を帯びていて…−−−

密かに気色悪い、と感じた気持ちを胸の内にしまって、ルーシィは諦めてその後に倣った。


fin.
***
10000打を踏んで下さった稲荷ギンカさまのカウンターリクエスト『こぶるーで気持ちのベクトルがすれ違いまくってる感じ』です。
素敵やり取りはそのまま使わせて頂きました!
ベクトルのすれ違い…出来てますかね^^;

distance:距離という意味です。

え?この後ですか?
こぶらがきゅーちゃんをコイビトばりに紹介してルーシィをドン引きさせるver.やらこぶらのきゅーちゃんへの溺愛ぶりにドン引きするルーシィver.やらその他諸々とあるのですが…人様に捧げるものですのでひとまずここでこの話は終わりです。
この後の暴走具合は後々こぶら祭を始めるのでその時にでも。
あ、いらない?
いやいや、遠慮なさらず(っ旦マズハオチャデモッ

こんなにもこぶらに萌えまくって悶えまくっているゆんの為のような学パロこぶるーリクを本当にありがとうござます!!

稲荷ギンカ様のみお持ち帰り可です。
10000hit本当にありがとうございました!!


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