静かな森の中、聴こえてくる音は鳥の鳴き声と風に揺れる葉の重なり合う音だけ。
運が良かった、なんて安心したのも束の間。
目の前で愉しそうに笑みを浮かべた男へ不審な眼差しを向ければ、彼はにやり、と三日月を描く。

「偶然にもこの辺りで仕事だったのよ。偶然にも、な」

紋章の描かれた舌を憎らしげに出して、言葉を弄ぶようにそう告げた彼へ眉を顰めて見せれば、『シゴト』『グウゼン』と繰り返す浮遊人形たちを囲うように彼は両手を広げた。
その様子はただ遊んでいるだけのようで、ルーシィは諦めるように溜息ひとつ。
吐き出して、つきんと痛んだ腕に自身に起こった出来事を思い出した。

「あ、ありがと…あんたのおかげで大怪我しないで済んだわ、ビックスロー」
「どういたしまして。コスプレ嬢ちゃん」
「あんたそれいい加減やめなさいよっ!」

ひくり、と頬を引き攣らせて、噛みつくように叫ぶとビックスローはからからと笑う。
悪戯に弄ばれていることに素直な感謝の念を抱けず、拳にぐっと力を込めると不意に声色の陽気さが消えて、声が低くなった。

「まぁ、無傷ってわけにはいかなかったみたいだけどな」
「……なによ、散々攻撃したことあるくせに」

心配されていることに気付いて、くすりと笑みが込み上がる。
唇へ手を当ててからかうように目を細めれば、ルーシィの反応に自身の言葉を思い出したのかビックスローは不機嫌そうに悪態をついた。

「あ?つーか、星霊魔法使えよ」
「そんな余裕ないでしょっ!?」
「おーおー女王様は怖いねぇ」

くっく、と喉で笑って、再び口許が弧を描くと先ほどまでの空気が緩む。
掴みどころのない様子に長い溜息を吐き出して、ルーシィは眉根に寄った皺を押さえた。

「はー、あんたの相手してると疲れるわ」
「つれないねぇ。折角会ったんだ、もっと遊ぼうぜ」

にやにやと楽しそうに言葉を弄ぶ彼の言葉を無視して、ふといつも側にいる二人がいないことに気付く。

「あれ、残りの雷神衆。フリードとエバーグリーンは?」
「見ての通り俺だけ。あとはベイビィ達しかいないねぇ」
「へぇ、珍しいわね」

ふざけながらも問いかけにはしっかりと答えるビックスロー。
意図的な意地の悪さが否めないが、その様も慣れてしまえば必要な情報だけを掻い摘めばいいだけで。
全く気にせずにそう零せば、諦めたように彼が肩を揺らした。

「俺たちは個々の時間を大切にしてるのよ」

琥珀色の瞳はきょとんと見開いて、つまらなそうに呟いた声が静かな森に木霊する。


》to be continue.
***
「つーか、星霊にもコスプレかよ」とかぼそっと言うびっくすろーが愛おしい。

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