多くは望まない。
だって僕は星霊で、君は人間だから。
この気持ちはずっと殺してきたのだからこの先もきっとなんてことはない。
それなのに…―――。

「それは反則だよ」
「え?」

きょとん、と覗き込んでくるあどけない表情。
微かに朱を彩る頬。

「ど、どうしたのよ、いきなり」

視線を泳がせながら紡ぎだす言葉。
長く眺めていると押し殺した感情が引き摺り出されそうになる。
吸い込まれそうな程に真っ直ぐな瞳。
できることならその視線を自分だけに向けて欲しい。
けれど、どれほどの甘い言葉を囁いてもたったの一瞬しか気を引くことができない。
ずっと、なんて夢のまた夢。

「ロキ?」

不安げに揺れる琥珀色に自身を投影して、先ほどまで渦巻いていた感情を打ち消す。

「いや、なんでもないよ」

くすり、といつものように笑顔を向ければあからさまにほっとしたように笑みを零すルーシィ。

「それにしても、派手にやったね」

包み込んだ手に視線を戻して溜息をひとつ。
呆れた声にあはは、と困ったように笑う彼女の白い腕を持ち上げて、傷だらけの掌を眺める。

『渡したいものがあるから部屋で待ってて』

ギルドで告げられた言葉を素直に受け取ってルーシィの部屋で帰宅を待っていると待ち侘びていた彼女は途中で襲われたのかと心配するほどにぼろぼろの姿だった。
転んだだけだと言った彼女の言葉と外傷から見て、確かに誰かに掴まれた痕はなく、襲われた形跡もなかった為に信じたがそれを差し引いても擦り傷が目立った。
掌には無数の木の破片が刺さっていて居た堪れないほどに。

「まったく、ルーシィは女の子なんだからもっと気をつけなきゃ」

だめだよ、と窘めても肩を竦めるだけ。
本当にわかっているのだろうか。

「でも、顔じゃなくてよかったよね」

無邪気に笑顔を見せるルーシィに再び溜息を吐いてテーブルに置いた蜂蜜の瓶を手に取る。
そのまま瓶の蓋を開けて中身を垂らすと驚いたように金糸が靡いた。

「少しつけてると木片が浮いてくるから」
「本当?」
「多分ね、針を炙って取りだす方法もあるけど」

それは僕が許せない、と零すと薄らいだ朱が再び赤に染まる。

「なんかロキって保護者みたい」
「似たようなものだろ?」
「でも保護者じゃないわ」

木漏れ日に射す光のような笑顔に思わず息が止まった。
時が止まったかのように動けなくなる。

「あ、」

零れ落ちた蜜が手首に垂れて、惹かれるままに唇を寄せた。

「ろ、ロキ?」

呼ばれる声は媚薬のようだと思いながらただその蜜を舐め取る。
丁寧に、丹念に。
この想いをルーシィへと擦り込むように。

「ロキ!」

一際強く呼ばれたその声に顔を上げると耳まで染め上げた表情と潤んだ瞳に睨まれた。

「も…いい」

小さくそう言いながら手を胸元へ引き寄せて俯くルーシィ。
微かに震えている肩が視界に入って思わず苦笑した。

「ごめんね、怖かった?」

その仕草のひとつひとつが扇情的で次々と湧き上がる感情を殺すことが至難になっていく。
これ以上はここにいるべきではない、と判断して立ち上がるとルーシィがばっと顔を上げた。

「ま、待って!」

焦ったように近づくルーシィに首を傾げて次の言葉を待つと、不意に差し出された見慣れぬ花。
震える手で差し出されたその花を受け取ると俯きながら言葉を紡いだ。

「ろ、ロキにあげる」
「…ありがとう」

意味が汲み取れずにお礼を言うとしばらくして安堵と共に微笑む彼女。

「ん……あ、もう帰っていいよ」

手元の花に視線を注いで意味を探しているとあっさりと告げられた。

***
朱色に染まった頬。
恥ずかしそうに手渡された花。
ほっとしたような笑顔。
星霊界に戻って考えていると後ろから声が掛けられる。

「どうかしたんですか?」
「んー…ルーシィからもらったんだ」
「アイリスですね」

視線だけ向けると相変わらずの無表情で答える処女宮のバルゴ。

「花言葉は`あなたを大切にします`」

淡々と告げられたその言葉に思わず時が止まった気がした。

「でぇきてる"ぅ」
「…ふふ、ハッピーの口癖が好きなのかい?」


fin.
***
夜来礼讚:稲荷ギンカ様へこっそり相互記念にロキルを書かせて頂きました。

以前図々しくもリクエストを取らせて頂き、ロキルかナツル、とのことだったのでゆんの勝手な判断でロキルを書かせて頂いた次第です。

なんて正当化してみましたが、本当は頂戴しまくり過ぎて居た堪れなくなって何か差し上げたい!!という衝動によって重過ぎる愛が生み出した自己満足の産物だったりします。
いあ、でも久しぶりにまともに書けた気がします!
結局甘いのになってしまうのですが…(汗)

アイリスは和名でアヤメ。

もしお気に召して頂ければお持ち下さい。
稲荷さまのみお持ち帰り可。


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