いつものチームでいつものように仕事を終えて帰路を辿る間、ルーシィの頭の中は減らされた報酬額と今月の家賃のことでいっぱいだった。
目の前で繰り広げられる小競り合いすらぼやけて映る程に―――。

「ったく…壊し過ぎなんだよ、このクソ炎が」
「んだとコラ」

不機嫌そうに吐き出された溜息。
ナツは噛みつくように振り向いて、応戦の言葉と同時に身体も動く。
挑発するように口角を上げたグレイも足を止めて魔力を解放した。

「止めないかっ!」

瞬間、鮮やかな緋色の髪が靡く。
制止の声が叫ばれるが、時既に遅し。
互いの掌を覆った炎と氷が一瞬にして空中で弾かれると衝撃の反動でぶわり、と強い風がぶつかり合った。
思いの外近距離で弾けた衝動にルーシィはバランスを崩して。
そこで漸く、眼前で起こっている状況を理解する。
しかし、その危険を察知した時にはルーシィの身体がふわりと浮いて投げ出された。

「きゃ!?」
「お、い…っ!?」

すぐさま手を伸ばしたナツの指先が微かに肌を掠めて、触れるよりも早く空中で風に流されていく。
偶然にも後ろは崖で。
地面との距離が徐々に遠ざかることをまるで人事のように眺めながらルーシィは声にならない悲鳴と共に―――落ちた。
スローモーションで映し出される景色。
びりびりと伝わる圧迫感。
身体中を駆け巡る危険信号。
ばさばさ、と剥き出しの肌が木々の枝によって薄く赤い線を描いていく。
木の葉がクッション代わりとなって勢いを軽減させるが、そのおかげで意識がより鮮明に保たれた。
ルーシィは迫りくる地上を認識して、最後の衝撃に耐えるべく瞼をぎゅ、と強く瞑り息を止める。

「―――っ………ん?」

しかし、覚悟した痛みはやって来なかった。
代わりに小さな衝動が身体を包んで。
とさり、と受け止められた感覚に恐る恐る瞳を開ければ、視界に映ったのはいつかの見慣れた仮面とふよふよと浮いている玩具たち。
唐突に現れた。否、遭遇した怪しい仮面の男はふーっと長い息を吐いて。
何も言わずに抱き止めたルーシィの身体をゆっくりと地面へ降ろす。
ふわり、と地に足が着いたことに不思議な感覚を抱きながらルーシィはほっと胸を撫で下ろして。
一息の後にそろり、と顔を上げた。
まじまじと仮面の男を観察しながらルーシィは呆気にとられるように口を開く。

「―――な、んで……あんたがいるの?ビックスロー」

名を呼ばれた彼は愉しそうに唇を歪めた。


》to be continue.
***
姫と仮面と森の中。
ビックスローが好き過ぎるゆんが自給自足に書いたビックスロー+ルーシィ的な話。

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