「ついてないなぁ」

ひとり呟いて寝返りを打つ。
朦朧とする中、上がっていく熱に浮かされて意識を手放した。

ぴちゃん、と水の滴る音で目を覚ます。

「あ、起きちゃった?」

くすり、と響くのは聞き慣れた甘い声。

「ロキ?」

霞む視界の先でゆっくりと掌が乗せられた。

「うん、少し下がったね」
「…どうして?」

風邪を引いたことなどわかるはずもないのに、と微かに首を傾げればロキが小さく笑う。

「オーナーの体調くらいすぐわかるさ」

特にルーシィのことならね、と片目を閉じて、水を替えに立ち上がった。

「ロキは、お花見行かなくていいの?」
「んー…僕は、フェアリーテイルの魔導士である前に、君の星霊だから」

悪戯に微笑んでベッドの端に腰を下ろす。
静かに触れてくる掌はとても心地良くて、少しだけ寂しかった気持ちが浮き上がってきた。
元気な時のひとりよりも体調の悪い時のひとりはとても寂しい。

「ありがとう」

ちょっとさみしかったの、と触れてくる掌に手を重ねて呟けば困ったような苦笑が漏れた。

「どういたしまして」
「…お花見、したかったな」

緩んだ気持ちと共に本音を吐き出せば、そうだね、と穏やかな声が返ってくる。

「僕と、見に行けばいいじゃない」
「ん」

優しさに同調するように頷けば、宥めるように流れる温かい手。
不意にざわめきが大きく聞こえた。

「なにかしら」
「外からだね」

視線が窓へと向けられてゆっくりと開けば、ざわめきが一層大きくなる。
街の人々の視線の先へ先へと目を凝らせば、流れてくるのは船に乗せられた大きな桜。
舞い散る虹色が夜の空を映えさせる。

「…綺麗」
「…まったく、敵わないな」

思わずそう呟いた横で困ったように笑うロキ。
見上げれば、既にいつもの笑顔で良かったね、と返された。

「お花見、できたね?」

ふたりで、とは言わずににっこりと微笑めば、一瞬だけ笑顔が消えて。
驚いたように見開かれた瞳が細く動いた。

「…そうだね」

ふわり、と掠めるように頬に当たる感触。

「ありがとう」

瞬きひとつ、口付けられた頬を手で押さえるルーシィ。
くすり、といつものように笑って。
側にいるこの瞬間を大切にしていきたい、とただ願った。


fin.
***
うたみさんの「ちぇー」が可愛かったので書きたくなった暴挙。
【アニメ#73】のルーシィを看病しに来ちゃったロキ。

うたみさんへこっそり捧げます。

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