「ルーシィ!」

平穏な時を刻んでいたギルドへ傾れ込むように勢いよくグレイが迫ってきた。
唐突に掴まれた腕。
驚いて振り向けば、普段とは明らかに異なる様子で捲し立てるように依頼書を眼前に広げる。

「これ!一緒に行かないか?」

突き付けられたそれを半ば反射的に受け取って。
軽く目を通してから曖昧に頷いた瞬間。
引き摺られるようにギルドから連れ出された。

「ち、ちょっとグレイ!」
「あ?なんだよ」

まさにこれから列車に乗ろう、というところで制止の声を上げる。
緩く立ち止った彼に漸く安堵の息を吐いて。
周りにいつものメンバーがいないことに首を傾げた。

「もしかして、ふたりで行くの?」
「そうだけど。俺とじゃ嫌か?」

周囲を指して問うも当たり前のように返される言葉。
けれど、少しだけ気遣われる問いかけ。
先程までの勢いはなく、いつものグレイに益々疑問を浮かべる。
彼は少しだけ困ったように眉を下げて、列車を指した。

「まぁ、なんだ。話は移動しながらでいいか」
「う、ん…?」

その後に倣って席へと座り、列車が発車の合図が出された―――瞬間。
遠くから聞き慣れた叫び声が響き渡る。

「こんのクソ変態氷野郎がぁーーーっっ!!!」

あまりの大声に息を飲んで。
そろり、と窓の外を覗けば、見慣れた桜色がバタバタと暴れていた。

「ナツ…?」

段々と小さくなっていく桜色を眺めながらマグノリアから離れたことを実感して。
目の前を見遣れば、勝ち誇ったように鼻を鳴らす上裸の男。

「もしかして、ナツを出し抜いて仕事に行きたかった…ってこと?」
「ルーシィとな」

思い至った理由に呆れて溜息交じりに見上げれば、上機嫌なグレイが口角を上げる。
掴み合いの喧嘩は日常茶飯事だが、周りまで巻き込んで子供染みた仲間外れだなんて。
グレイにしては珍しい。

「あんのクソ炎、エルザがいないからルーシィ誘って仕事行くって言いやがってよ」
「うん?」
「で、俺は来なくていいだとかごちゃごちゃと喧嘩売ってきたんだ」
「あー…」
「で、ムカついたからあいつが行こうとしてた仕事先に取ってルーシィ引っ張ってきた」

ざまあみやがれ、と得意げな笑みを浮かべて。
腕を組む姿は男前に見えなくもない。
服さえ脱がなければ、というのが残念だけれど。

「とりあえず服着なさいよ」
「おわっ!?いつの間に!」

わたわたと服を着直すグレイを半眼で見やって。
まったくもう、と肩を落として溜息を吐き出した。

「だいたいルーシィは甘やかし過ぎんだよ」
「な、なんであたしなのよ!」

拗ねたような不機嫌な指摘に抗議の声を上げれば、呆れ交じりに長い溜息を吐き出される。
そして徐に片手をあげると、指折り理由を挙げ始めた。

「不法侵入は咎めねぇし」
「…グレイだって勝手に入ってくるじゃない」
「あいつがもってきた仕事は断んねぇ」
「だって、チームだもの」
「で、散々暴れて報酬減らされても結局許す」
「……それは、グレイにも言えるんじゃないかしら」

自分のことを棚に上げて良く言うわ、と苦笑して。
けれど、楽しそうに笑うグレイに諦めて嘆息する。

「もう、人のこと巻き込んで喧嘩しないでよね」
「俺だってルーシィに甘やかされてぇよ」
「ふ、ぇ?」

悪戯に笑いながら織り交ぜられた言葉にぽかん、と問い返せば、確信めいた漆黒の瞳が細められた。
真っ直ぐに射抜くような視線に思わず息を止めて。
火照る頬が赤く染まっていく。

「ナツばっか構ってねぇでたまには俺のことも構ってくれよ、姫さん」

意識するように低く囁かれる声。
絡め取られた髪に落とされる口付け。
先程までのからかうような声色と異なる雰囲気に知らず息を飲んだ。
次の言葉が見つからずに視線を泳がせれば、くっく、と楽しそうに笑いが漏れ落ちる。

「ルーシィ、顔真っ赤」
「な、なななに…だ、だってグレイがっ…」
「あ?俺か」

混乱しながら紡ぎ出す声は上手く言葉にならなくて。
耳や頬に集まる熱を誤魔化すように漸く一言。

「ぐ、グレイってタラシだったのね」

熱を帯びる顔を抑えて。
予想外な一面を目の当たりにして。
戸惑う気持ちはついに目的地に着くまで治まることはなかった。


fin.
***
初グレルー。
グレイは天然タラシだと思う。

abruptly:急に, いきなり.

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