「う……ん」
全身を覆う気怠さの中、朦朧とする意識を取り戻す。
数回瞬きをして起き上がろうとするが、力が入らなかった。
とさ、と目の前の枕に顔を沈めれば。
隣で満足そうに眠るナツが身動ぎをする。
窓の外は暗く、冷たい空気が夜中であることを認識させた。
「の、ど…乾いた」
はっきりとしない意識の中、渇いた喉を潤したいという本能で無理矢理身体を再度持ち上げる。
しかし、ふと、自らが全裸であることに気付き、寝起きの頭が回転を始めた。
「わ…き、きゃぁっ」
「っ!?」
無音の部屋に響くその声はひどく大きく、隣で熟睡していたナツが、がば、と反射的に身体を起こした。
「どうした?」
「な、な……なん…なんで、はだ、……」
口をぱくぱくと動かして、一生懸命に言葉を紡ぎ出して。
必死にシーツを巻くし上げる。
その様子にナツが、首を傾げて眠そうに眼を擦りながら眉を顰めた。
「覚えてねぇのか?」
後ずさるルーシィの顔を覗き込むように近付いて。
揺れる瞳と視線を合わせる。
「え、と……」
ナツの言葉に昨夜の記憶を呼び起こして。
身体に残る情欲の感覚にかぁぁ、と全身が熱くなった。
恥ずかしさのあまり俯いて、言葉にならない声を出して視線を泳がせる。
「ルーシィ?」
不安そうに頬に触れてくるナツの手が未だ熱を持っていて。
びくり、と身体が強張った。
ぎこちなく離れる動作にも昨夜の残りが窺えて。
あまりの恥ずかしさにぎゅ、と目を閉じる。
「……思い出したか?」
深い溜息が吐き出されて、がりがりと頭を掻いて。
気まずそうに聞いてくるその声は、普段のナツとは違って聞こえて。
こくん、と小さく頷いた。
「あー…身体、大丈夫か?」
尚も震えているその身体をゆっくりと引き寄せる。
安心させるようになるべく優しく撫でながら問いかけるが、強張った身体はなかなか緩まない。
「……大丈夫、じゃない」
「どこが大丈夫じゃねぇんだ?」
「全部、痛い……力入んない……ナツのばか」
か細く、弱々しかった声は、徐々に怒りを含んでいるものとなって。
キッと睨み上げてきた瞳は涙が零れそうに溢れていた。
ルーシィなりの必死な強がりであることが容易に想像つく。
「……けど俺、あやまんねぇよ」
「なっ……」
「だってほしかったんだ」
ルーシィがほしいと思って身体が動いてしまったものは仕方がない。
それを謝るのはなんとなく違う気がした。
「怖がらせたのは、悪かったけど」
喰いたかったんだ、と至極真面目に言い切る姿に迷いなんて微塵も感じられなくて。
ナツらしいその言葉に思わず納得しそうになる。
「……他に言い方はないのかしら」
「あ?えーと…ルーシィが好きだ」
「なにその付け加えた様な言い草」
困ったように頭を掻くその姿はいつものナツで。
少しだけほっとした。
「……ナツにも、あったのね……そういう、の」
欲情された、という事実に驚きを隠せずに。
今までどんなに身体が触れ合ったとしても表情を変えたことのないナツが。
一緒のベッドに入ったとしても抱き枕のようにしか認識していなかったようなナツが。
女の子を求めることが急に可笑しくなって笑みが零れる。
「な、なんだよ」
「だって、ナツも男の子だったんだなぁって」
「はぁ?当たり前だろ」
ばかだな、と呆れたように見下すナツの顔がほんのりと赤みを帯びていた。
それでも、くすくす、と笑うルーシィに安心したのか、ぎゅぅと再び抱き締め直す。
「言っとくけどなぁ、ルーシィだけだからな」
縋るようにルーシィの頭に顔を押しつけてきて、掠れた低い声で囁いた。
その姿がとても愛おしくて、おずおずとその身体に触れる。
「……うん」
「俺、今……すっげぇ嬉しい」
はぁ、と熱い吐息が耳に掛かり、抱き締められている腕の力は緩められず。
その存在を強く確かめていた…―――。
が、数秒後。
すぅ、と心地良さそうな寝息が聞こえてくる。
「〜〜〜…っ……信じらんない!?寝る?普通」
顔を真っ赤に染めてナツの頬を引っ張るが、起きる気配はなく。
案の定、抱き締める力も緩まず。
「もう、どこまでわかってるのかしら」
子供のような寝顔に文句と溜息を吐き出して欠伸をひとつ。
再び襲ってきた睡魔に意識を委ねて。
温もりに擦り寄って瞼を閉じた―――。
fin.
***
全部手直して思ったけれど…何故長編になったのかが謎.
ルーシィに惹かれるナツを延々と書きたかっただけです、はい。
お付き合いありがとうございました.
do you understand?:わかってるの?
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