「よし、じゃぁ寝ようぜ」

にかっと満面の笑みを浮かべて。
当然のように横になる。

「なっ…も、もしかして一緒に寝る気!?」
「当たり前だろ」
「だ、だ、だめよっ!」
「なんだよ、ケチだな」

口を尖らせて拗ねるが、抱き寄せている腕の力は緩めようとしない。
一生懸命に押し返してもナツに離す気がなければ身体は微動だに離れず。
焦りながら紡ぎ出す言葉は要領を得ない。

「ケチとかじゃないでしょっ!あ、ああんたが平気でもあたしは平気じゃないの!」
「なんでだよ」
「な…んでって…その、だから…」

平然と返してくるナツへ常識的に考えて、なんてことは伝わるはずもなく。
それでも男の子と同じベッドで一夜を過ごすなんて考えられない。
ましてや意識していることなど認められるはずもない。

「なんでだめなんだよ」

なんだ、なんだと質問してくるその姿はまるで幼い子供と大差がない。
続く言葉が思いつかずに、頬を赤く染めたまま俯けば。
思うところでも見つけたのか、あぁ、と笑った。

「心配すんな、なんもしねぇよ」

くっく、と押し殺したような笑いと共にそんな言葉が吐き出されて。
思わず上がった熱に思考が止まりそうになる。

「な…べ、別になんにも心配してないわよ!ナツなんだから…」

ナツなのだから心配する必要などない。
それは側にいるルーシィが誰よりも理解しているつもりだった。
けれど、ナツにその気がなくとも少しでも意識している男の子が隣にいたのでは、眠れる気がしない。
触れ合っている部分から心音が聞こえてしまうのではないかと思うほど緊張しているのに。
なにか、なんてされたら容量オーバーでどうにかなってしまいそう。
そんなことを思考の片隅で考えて、火照る頬を冷ますように深呼吸をする。

「ふぅん」

そんなルーシィの様子につまらなそうな声を出して。
拗ねている声とは明らかに異なった不機嫌さを含む声が降ってきた。

「ルーシィは最初っから俺がなんにもしないと思ってるのか?」

心外だ、とでも訴えるように抱き締める腕を緩めて。
視線を合わせて。
つぅ、と背中を這う感触と共にナツが口角を上げる。

「俺だって男なんだぜ?」
「ひぁっ…」

短く上げた悲鳴に満足そうに目を細めて。
こつん、と額と額を合わせた。

「なんにもしないって決めつけてんのは面白くねぇなぁ」

低く囁くように告げられる言葉は妙に艶めかしくて。
混じり合う吐息に動揺して、眩暈がする。

「ば、か!は、はな、し、なさい、よ」

焦りと緊張が入り混じって、ぐぐ、とナツの胸を押し返すが、効果はない。
混乱していく感情を落ち着けようとぎゅ、と目を瞑れば。
ちゅ、と柔らかい感触が額、頬へ―――ゆっくりと触れてきた。
交わる熱にうまく頭が働かず。

「やだっ……や、」

弾けるように瞳を開けると今まで見たことのないナツの表情に息を飲む。
見開いた目は逸らすこともできずに、ただ見つめて。
ありのままを受け入れようと覚悟した瞬間。

「なんて―――ルーシィにするわけねぇだろ」

かっかっか、と愉しそうに笑い声を上げて。
先程まで離そうとしなかったのが嘘のようにするり、と身体を離した。
数秒間、何が起きたのか理解できずに呆然として。
からかわれたのだと思考が追い付く。

「し、信じらんないっ!!もう早く帰ってよ!」

いつもの雰囲気になったことに安堵して。
首まで真っ赤に染め上げて。
どきどきと鳴り響く心音を誤魔化すように喚いた。


》to be continue.
***
自覚しているのか無自覚なのか曖昧なナツ。

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