冷たい夜気が肌をすり抜けていく。
一体どのくらいの間、こうしているのだろう。
何故か今日はギルドに行く気になれず。
心を過る不安を含む気持ちから逃げるように当てもなく、ただ足が進む方向へと、向かって。
辿り着いたのは、マグノリアの見渡せる丘だった。
ショートパンツから伸びる白い足を両腕で抱え込むように座って、そのまま夕陽が沈む様を呆然と眺めて。
暗くなる空と共に沈んでいく気持ちに自らを投影するように顔を伏せて、目を瞑る。

「ルーシィ」

少し離れた場所から聞き慣れた声が聞こえた。
ぴくり、と身体が反応して。
それでも閉じた瞼は開かず、背後から近付いてくる気配を待つ。

「何してんだ?」

黒髪の彼は、そう言いながらルーシィの隣へと腰を下ろした。

「……星が、綺麗だから見てたの」

ぽつり、と零す言葉が不自然に響いて。
それを隠すように言葉を続ける。

「…グレイは?」

ちらり、と横目に彼を見やれば。
つまらなそうに、んー、と伸びをして。

「けどお前、昼過ぎからずっとここいんだろ」
「え?」

交わらなかった視線がカチリ、と合った。

「………」
「昼間ルーシィが来てねぇってナツが騒いでたぜ」
「ん」
「クソ炎はどうでもいいけどよ…」

そのまま視線は外されず、視界にその瞳が近付いてくる。
こつん、とひんやりとした感触が額に広がった。

「こんなとこずっといたら風邪引く」

ふ、と至近距離でかかる吐息は冷たく。
けれど、どこか温かくて、ほっとする。

「寂しかったら言えよ、一緒にいてやるから」

す、と離れ間際にそう呟いて。
グレイはルーシィの腕を引っ張り上げた。

「帰ろーぜ、お姫様」
「……さ、淋しくなんてないわよ」

自然と繋がれた手から動揺が伝わってしまう気がして、精一杯強がって見せる。
くっく、と喉で笑って歩調を緩めて。

「ほ、ほんとなんだからね」

彼は、おー、なんて呑気に答えながら優しく包んでいた手に力を込めた。
まるで、ここにちゃんといる、と存在を強調しているようで。
なんとなく、見透かされていることは面白くないけれど。



だけど…―――。きっと同じ時間を、ただじっと側で過ごしていたのだと思うと、沈んでいた気持ちが浮上していく気がする。

「グレイ」
「あー?」
「ありがと」
「……おう」

その声はひどく落ち着いていて。
だけど、不意にじんわりと汗ばみ始めた掌がグレイの心情を伝えてきた気がして。
くすり、と口元から笑みが零れた。


fin.
***
so gentle:優しいね

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