ギルドはいつものように騒がしかった。
否、いつもよりも騒がしかった。
扉を開けてギルドへ入り、疑問に思いながらもルーシィはいつもの席に座る。

「なにかあったんですか?ていうか、酒臭い〜」
「ふふ、ルーシィも飲む?」
「私はいいです」

丁重にお断りすると、くすくす、と楽しそうにミラジェーンが事情を教えてくれた。
どうやら‘酒樽を処分して欲しい‘という依頼を誰が受けて来たのか、大量の酒樽を持ち帰って来たそうで、浮かれたギルドの仲間たちはお祭り騒ぎ状態である。

「カナなんていつもより飲んでるわよ、あれ」

大丈夫なのかしら、と横目に呆れているとミラジェーンがにこにことオレンジジュースを差し出してくれた。

「そうねぇ、ちょっと飲みすぎよね」

ありがとうございます、とお礼を言いながらコップに手を伸ばす。

「ミラちゃん、俺にもジュースくれ」
「あら、グレイ」
「グレイは飲まないの?」
「付き合い切れるか」

大袈裟に溜息を吐き出しながらルーシィの隣に座るグレイ。

「グレイ、服……んっ!」

飽きれながら横を振り向いた瞬間、眼の中に違和感を感じた。

「どうした?」

グレイは、眉を顰めて突然片目を抑えて俯いたルーシィを覗き込む。

「いっ……た」
「あ?」
「目に、なにか入った…」
「おい、擦んなよ」

溢れ出る涙を拭おうとするルーシィの手首をグレイが遮った。

「だって、」
「ったく…ほら、上向け」
「んー」

瞬きをしながら涙を零すルーシィの顔を上へ向かせて、その瞳を覗き込む。

「傍から見るとグレイがルーシィにキスしようとしてるみたいね」

グレイに頼まれたジュースを運びながらミラジェーンが楽しそうに目を細めた。
その言葉にルーシィは抗議しようと口をあけるが、

「ルーシィ、動くなって」

顰め面のグレイに制止させられる。

「…埃かなんか入ったんじゃねぇか?」

しばらく眺めてから、問題ねぇよ、と離れて椅子へ座り直すグレイ。
それに安堵の息を吐いてルーシィは、カタン、と椅子に手をかけた。

「もぉ、ミラさんってば、」
「擦ると目ぇ腫れんぞ」

くっく、と喉で笑うグレイに、子供扱いしないでよね、と口を尖らせるが、不意に背中にぽす、と与えられた小さな衝撃に振り向く。

「ハッピー?」
「ルーシィ、オイラ見ちゃった」

くふふ、と青い猫は両手を口元に押えて笑っている。

「何をかしら?」
「グレイがルーシィに、キ…―――」
「してないから!」
「えー、ナツも見たよねー?」

視線を上げると、彼は大層不機嫌な表情で睨んできた。

「ぅ……なによ」
「変態がうつんぞ」
「だから違うってば!」
「ナツ!てめぇ誰が変態だって!?」

喧嘩を売られたと認識してガタッ、とグレイが立ち上がる。

「目になにか入ったから見てもらってただけよ!」

未だ違和感のある目の下を抑えながらナツを見上げるルーシィ。

「目ぇ?」

ナツは、眉を顰めると、ガシ、とルーシィの顔を掴んだ。
そのまま顔と顔の距離を縮めて、

「ち、ちか、近いっ!!」

急激に接近してきたことに驚いて喚くルーシィを無視して、額をこつん、と合わせる。
琥珀色の瞳に自分の姿がだんだんに大きく映し出されていくことに安心しながら。
おぉ、と歓声があがる。
そのざわめきに、ん?とナツの意識が逸れた。
同時にルーシィもナツから離れようと動いて。
ちゅ、と小さく音が鳴る。

「あ、」
「え?」

ナツとルーシィは、きょとん、と瞳を見開いて視線を合わせた。
何が起きたのかを先に認識したのはルーシィ。
呆然と口元を押さえていた手を震わせながら、かぁぁ、と頬を朱へ染めていく。

「い、……い、今のは、」
「…おい?」

俯きながら絞り出されるその声が涙声にも聞こえて、泣いたのかと思い、その顔を覗き込んだ。
瞬間、ばっ、とルーシィが顔を上げる。

「今のは、事故なんだからね!!!」

そして、そう叫んだかと思うと、勢いよくギルドを出て行った。


》to be continue.
***
ゆーく様からの【ナツルーで"ルーシィからの"初めてのチュウ@公開執行編】リクの初期ver.
あまりの長さに捧げるの断念したけど折角書いたからupはする。
《defeat》とは完全に別話です。
長いので3つに分けました。
とりあえず、事の発端はナツ、ルーシィへ公開ちぅ。
事故発言はどうしても入れたかった…公開執行だから。

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