桜吹雪に囲まれて、思い浮かぶはただひとり。
側にいなきゃ意味がない。
一緒に笑えなければ楽しめない。
触れられる距離が心地良くて。
離れている時間も心を占めるのはひとりだけ。

「ありがとね!」

嬉しさに高揚する気持ちのまま頬を赤らめて抱き付けば―――。

「な、なんのことだよ」
「う、オイラ全くなんの事だか…」

しどろもどろに焦るふたり。
そんな様子にくすり、と笑みを零して。

「お花見、行こっか」

きょとん、と目を丸くするナツを横目にハッピーを抱える。
出口へ向けて数歩。

「…行かないの?」

振り返って訊ねれば返ってきたのは満面の笑顔。

「行くに決まってんだろ!」

笑い合って寄り添って―――歩く道のりは春麗らかな気候に包まれて。
ひらりひらりと散りゆく薄い桃色が舞っていた。

「わ…ぁ―――綺麗」

花弁で遮られる視界の先に融けるように染まる桜一色。
拡がる桜色に思わず目を見開いて。
靡く金糸を押さえながら融け込んだ桜吹雪の中…―――ふいに身体が引き寄せられる。

「やっぱ…ルーシィ一緒じゃなきゃつまんねぇよ」

ぎゅぅ、と抱き締められて―――熱く触れる吐息に身体が固まった。
呼吸をするのも忘れて。
何も考えられなくなった思考の片隅で麻痺したように眩暈がする。
温かいその体温にまどろんで…―――ゆっくりと、その腕に手を重ねれば。

「でぇきてる゛ぅ」

聞き慣れた巻き舌風なその声が下から耳に入ってきた。

「―――…ま、巻き舌風に言わないの!」

紅潮する頬を隠すように俯いて小さく諫める。
解くように腕へ手を絡めれば。
同じように頬を赤くしたナツが肩に頭を埋めて唸った。
小さく囁くように。
低く響いたその声に、今度こそ思考が止まる。
染まり上がった頬を隠す術もなく、瞼を閉じて。
確かめるように抱き締められたその腕に身を委ねた―――。



―――つまんねぇから、もう風邪なんか引くなよ。



fin.
***
【アニメ#73】`虹の桜`の後話捏造.

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