`ルーシィ、悪いけど試験期間中は契約を解除させてもらうよ`
`心配はいらない、僕は自分の魔力で門をくぐってきた`
`だから、君の魔法は使えなくなったりしないよ`

慌しく仕事へ出ていく者がいれば、普段とあまり変わらずに過ごしている人もいる。
初めて見るその光景を眺めながらルーシィは不思議に思っていた。
そんな中、不意にギルドへやってきた彼。
その後放った言葉を反芻しながらルーシィは乱暴に身体をベッドへ投げやる。

「なんて勝手な星霊なのかしら」

ぼすん、と枕に顔を埋めて、無愛想に零した声は鈍く響いた。
頭の中を駆け巡るのは、自分の知らない約束と妖精の尻尾のロキという存在。

「ロキの、ばか」

ぽつり、と零した声は子供染みた寂しさを滲ませて。
独占欲を押し留めようとしても出てくるのは不満ばかりで。
それでも独り言ならばいいと思い直して「ばか」と呟けば、穏やかな声が降ってくる。

「やあ、僕のオーナーは御機嫌斜めかな?」
「ろ、ロキ!?」

反射的に上げた視界へひょこり、と現れたそのヒトは相変わらずふにゃりと微笑んでいて。
聞かれた言葉と返された声に思わず口を尖らせた。

「い、今はオーナーじゃないでしょっ」

直視できずに顔を逸らして、そう零せばロキは楽しそうに笑う。

「……そうだね」

ゆっくりと宥めるように響く声。
触れる指先が頬を撫でて、上がる熱を意識する前に身体が包み込まれた。

「ねぇ、ルーシィ」
「な、なによ」
「寂しい?」
「―――っそ、れは…」

優しく問われる声は肌を伝って、吐息と混ざり合う。
熱に煽られる距離は鼓動を速めて。
上手く紡げない言葉の先を理解しているようにくすり、と笑みが零された。

「僕は、星霊である以前に妖精の尻尾のロキでもある」
「…ん、わかってるよ」
「うん。だから、妖精の尻尾である前に君だけの星霊だよ」

本当にわかってるの、と覗く瞳はサングラス越しに細められていて。
漸く理解した言葉に全身の熱が身体中を支配していく。
ぱくぱくと開いては閉じる口は意味を成さない声を零して。
せめてもの抵抗に回された腕をぎゅ、と掴んだ。

「ルーシィ、今はオーナーじゃないって言ったよね?」
「う…」

軽い口調で楽しそうにのんびりと囁く声は確かめるように肌を撫でて。
あやすような仕草に思わず口を紡げば、安心させるように包まれた腕に力が込められる。

「ほ、本当は…わかってるんだからね」
「うん?」
「ロキは、ロキだって…」
「…うん」
「だ、だから…」

大丈夫、と象ろうとした唇を滑るように指先が塞いで。
ぴくり、と震えた肩越しに口付けひとつ。

「ねぇ、ルーシィ」
「な、なに…?」

甘く囁く声は有無を言わせない空気を漂わせて。
ひくり、と引き攣った表情に満足そうににっこりと微笑んだ。

「ふたりっきりなんて久しぶりだね」

緩めたネクタイを外す間も惜しんで、真っ赤に染まった頬を覆って。
いつものように発せられる言葉も紡がれる前に飲み込んで。
側にいる理由なんて必要ないことを刻み込む―――。



それでも溢れ出す想いは
止められやしないんだ


***
いつかのS級編前のロキル。

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