その緋色を忘れることは片時もなかった。
憎しみに支配されてからも記憶を失ってからも。
自身の過ちを思い出してからも押し潰されそうな苦悩に襲われても。
思考の片隅にはたった一人の少女が鮮明に浮かび上がり、スカーレットの鮮やかさが混沌に呑み込まれそうな気を紛らわせる―――。
澄み渡る青は眩しい程の輝きを放ってどこまでもどこまでも広がって。
日没と共に闇夜を迎えた空は新しい光を纏った朝陽で照らされて。
消えゆく明るみに沈む心は緋色に染まる夕焼けが優しく包み込んだ。
悔やんでも償い切れない罪を忘れゆくことを許さない紅。
全てをはっきりと思い出したその日から幾度も夢の中で懺悔を繰り返し。
ありのままの運命と死を受け入れるつもりでいたはずなのに。
瞼を閉じればいつだって、忘れることのない面影が脳裏を過って。
後悔と絶望、哀しい程の愛おしさを想い起させる。
そうして何度も強さや優しさを教えてくれた彼女は今いない。
瞼を閉じて溜息を吐き出すと呼応するように声が掛かった。

「ジェラール!」
「……なんだ、メルディ」

伏せていた視線をあげると桃色の髪がふわりと視界を彩る。
普段よりも嬉しそうな雰囲気に首を傾げれば、メルディは背後に座っていたウルティアへ目配せをした。
そうして悪戯な笑みを浮かべるとメルディは勿体ぶるように続ける。

「帰って来たんだって!」

その言葉の意味を今ひとつ理解できずに沈黙を守るとウルティアが可笑しそうにくすくすと笑った。
見透かしたように笑みを含んで、まるで見てみるかと言わんばかりの仕草で身に纏う水晶玉を翳す。

「妖精の尻尾よ」
「―――…そうか」
「あれ?もっと喜ぶかと思ったのに」
「あら、十分喜んでいるじゃない」
「そうなの?」

不服そうに頬を膨らませるメルディを横目に自然と上がる口角を隠すように俯いて。
ジェラールは苦笑しながら平静を装うように手元の枯れ木を薪へ放り込んだ。
広がる安堵に知らず頬が緩む。
どこかで生きているような、そんな感覚はずっとあった。
拭えない想いを確信的に信じ続けて。
その存在だけがいつだって心を安らがせる。

「……でも、喜んでばかりもいられないわ」
「あぁ、今年も大魔導演武がある」

穏やかな空気が一変して、ウルティアが深刻な声色で話始めた。
浮かれてばかりはいられない。
罪こそが生きる糧。
償うことが出来ないのならば、これ以上同じ悲しみを連鎖させないように。
そんな想いを抱きながら祈ることしかできず。
そう祈る資格すらない自身に苛みながら―――緋色の鮮やかさに目を細める。



叶うなら夢でもいいから
ただその幸せを願う


***
`06`と対のつもり。
ウルティアとジークレインも好きかも知れないとか思った。

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