長い長い時間が必要に思えた。
それが何故かなんて、そんなことまでは考えもつかなかったけれど。
今を生きているようで、いつまで経っても過去に縛られ続けている。
それほどまでに染み込んでいるのは、幼い心に刻み込まれた強大な恐怖と小さな幸せと数えきれない悲しみ。
忘れられることなど何一つなく、唯只管に力を求めて。
いつかもう一度、笑い合える日が来るのだと想い続けた。
そんな日は果たしてくるのだろうか。
小さな溜息と共に瞼を閉じると不意に大きな声で名前を呼ばれる。

「エルザ!」
「……なんだ、ルーシィ」
「ううん。ずっと外を眺めたまま動かないからどうしたのかと思って…」

不思議そうに首を傾げたルーシィは窓の外を指していて。
そう言われて漸く、視界に映る景色を認識した。
いつの間にか日が暮れ始めていて、鮮やかな緋色が街並みを覆っている。
遠い昔、姓をくれた彼は今―――何を想い、どこにいるのか。

「―――エルザ?」
「いや、7年も経つと街並みが変わるものだと思ってな」
「……そうだね。あたし達にとってはつい数日前のことなのに、色々変わっちゃったもんね」

沈んでいく夕陽を眺めながらルーシィはどこか悲しそうに瞳を伏せて。
何かを振り払うように笑顔を浮かべると明日の集合場所を告げた。
ぱたぱたと走り去っていく後ろ姿に溜息一つ。
倣うように席を立つと視界に映るのは人が疎らに座っているだけのがらんとした有様。
7年という月日がどれだけの物事を変えていったのか。
失ったものは少なからず存在して、哀しみの軌跡は目に見えるよりも大きく傷を晒す。
それらを受け入れながら前へと進んで、辿り着く先は一体何処になるのだろう。
本当は、時間なんて必要ないのかもしれない。
ただ目の前の事実をありのままに受け入れ、想うままに動けば或いは―――。

「……すっかり陽が暮れてしまったな」

頬を撫でる生温い風を感じながら歩く帰路はもうずっと見慣れた景色で。
この路を新鮮に感じ、不安を抱いていた頃は随分と前の出来事なのだと……思い出す度に痛んだ胸はもう痛まない。
代わりに湧き上がる感情は願うように追い求めたい衝動と過る仲間への想い。
いつの間にか辺りは暗くなっていて、聞こえるのはひとり分の足音だけ。
ぽたりと流れ落ちた涙の意味はきっと―――。


この空はどこまでも
繋がっているから


***
ジェラエルを書いてみたかった。
……ジェラールは何処へ?

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