ふと気付けば、視線が彼女を追っている。
靡く金糸と、揺れる薄い生地。
楽しそうに満面の笑みを浮かべるルーシィを視界に捉えながらヒビキは妖精の尻尾のメンバーたちから少し離れたカウンターに腰を下ろした。
六魔将軍討伐からしばらく経ったある日。
共に協力し合った仲間たちが青い天馬へ集う。
変わらない挨拶を交えて迎えた後は、各々ギルドの中で会話を楽しんでいた。

「―――ヒビキ!」

数日前まで間近で聞いていたその声に顔を上げれば、愛らしい笑顔のルーシィが近付いてくる。
ヒビキは振り向き様に立ち上がると同じように笑みを浮かべて。
隣の椅子を引くと誘うように席を勧めた。

「やぁ、ルーシィさん。ようこそ青い天馬へ」
「ありがと。この間の怪我は大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」

心配そうに覗き込む様子はあどけなさを残した少女の様で。
幼い子にするようにその髪を撫でるとくすり、とその肩が揺れる。

「……なんか、ロキみたいね」
「ロキ?」
「ん、獅子宮のレオ」

かちゃりと取り出された黄金の鍵は、何度となく見慣れたもので。
癒えない傷と渦巻く感情に強く掻き乱される。
忘れられなくて、忘れようとも思えなくて。
不器用だった彼女のわかりづらい愛情のカタチ。

「……どうかした?」
「いや……鍵を見るのは久しぶりだなと思って、ね」
「そう?」

不思議そうに首を傾げたルーシィは手に持った鍵を見つめると愛おしそうに一撫ですると大切そうにキーケースへ戻す。
その様子をぼんやりと眺めながらヒビキは過去と現在が同時化したような奇妙な感覚に襲われて。
誰も触れない思い出が鮮明に蘇った。

「彼は……君の恋人?」
「へ?…って、ロキ?ち、ち違……う、けど」

かぁぁ、と見る見る真っ赤に染まる頬。
予期しなかった新鮮な反応に思わず言葉を失って、目の前の少女を凝視した。
ルーシィは独り言のように言葉を続けては益々顔を赤らめている。
ヒビキはふ、と笑みを零すと同時に声を上げて笑った。

「純粋なんだね」

だからきっと、自然と周囲に人々が集まってくる。
その笑顔に惹かれて、その言葉に安らいで。
もっと側にいたいと願ってしまうんだ。
眩しそうに目を細めたヒビキは珍しそうに見上げているルーシィの頬へ指を滑らせて。
囁くように耳元へ顔を近付けて―――刹那。

「ルーーシィーーーっ!!!肉あんぞー」

彼女を呼ぶ声が大きく周囲に響いた。
一瞬、何が起こったか理解できていなかったルーシィは、間近にいるヒビキを漸く認識すると勢いよく顔を逸らして。
二度三度、口を開けたりしめたりすると、絞り出すように声を出す。

「―――っも、もう大声で人が肉好きみたいに言って……」

先程よりもずっと動揺したその姿にくすくすと笑いながら遠くで気まずそうに視線を逸らした彼へ目をやった。
妖精の尻尾は想像よりもずっと仲間との距離感が近い。
けれど、それはある意味では平等に接することが出来ると言うこと。
ヒビキはゆっくりと辺りを見渡して、小さく息を吐き出した。
そうして、慌てて仲間の元へ戻ろうとする彼女の腕を引くと真っ赤に染め上がった耳元へ唇を寄せて一言。

「ねぇ、また会ってくれる?」
「え、う……うん、勿論」
「よかった…―――じゃぁ、次はふたりきりで会いたいな」

甘く、囁くように熱を帯びる声。
立ち止まるように言葉を失うルーシィに笑みを零して、固まる彼女の背を促す。
だんだんと離れていく距離を眺めながらヒビキは小さく呟いた。

「出逢った時から既に相手がいる場合は、仕方ない…かな」

ふわりと揺れた桜髪と漆黒の瞳。
交差した視線。
にっこりと返した笑顔の意味はきっと―――。


優しいだけじゃ
気付いてもらえないよ


***
ヒビルー。
例え7年後ジェニーとらぶらぶだったとしても。
ヒビキがルーシィにメロメロだったら楽しいな。

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