例えば、向けられる笑顔だったり、掛けられる言葉だったり。
惹かれた想いと重なる温もりに気付いてしまったとして。
顔を見るだけで安心して、声を聞くだけで意識してしまう。
今までと同じではいられなくて、今までと同じでいたい。
平静を装おうとすればするほど、どうやって接してきたかを忘れていくようで。
新しい想いが別の感情を引き出していく。
物語の中でしか知らなかった想いの名はこんなにも胸の内を騒がせて、こんなにも胸を締め付けていく。

「……どうしよう」

触れられた温もりの熱さを思い出してルーシィはひとり呟いた。
持て余す感情に気持ちが昂って、鼻先に響く痛みに涙が溢れる。
刹那、がたりと窓が開いた。
視界に映ったのは、白い羽根を広げる青い仔猫と風に靡いた桜色の髪。
咄嗟に口を出たのは拒絶の言葉。
同じでいられなくなるのならば、今はまだ―――側で笑い合っていたい。

たとえば、楽しそうに上げる笑い声だったり、揺るがない真っ直ぐな瞳だったり。
側にいないと落ち着かない程その存在を求めていると周囲に言われたとしても。
それが他とどう違うかなんて、考えたこともなかった。
ただ、いつも視界に入れていないと落ち着かないことだけは間違いないと自覚があるのは事実。
その感情の意味を知らないということが隔たる距離を広げることだなんて、思ってもいなかった。

「なんで、泣いてんだよ」

零れ落ちた声は刺さるように放たれたルーシィの一言で掻き消されて。
次いで込み上がる感情は言葉になる前に思考を止めていく。
燃えるように巡る血が急激に冷やされていくようで、凍り付いたように足が動かない。
涙が床を濡らす音が鮮明に耳へ響いて、漸く熱が上がり始める。
同じ気持ちだと、感じることは出来るのに遠い距離を埋める術がわからなかった。
たったひとつ、時間が経てば手遅れになることだけは本能が知らせてくる。

タトエバ、赤く染まる頬だったり、口籠って言い留まる仕草だったり。
視線の先が誰へ向けられているのかを知っていたとして。
やるべきことは何も変わらず、守り続けると誓った心に偽りはない。
諦めた望みも想いも全てを救われたその時から、忘れていた感情が甦った。
だから、どんなに些細なことでも力になりたくて。
どんなことがあっても笑顔を絶やすことのないよう側にいたいと願う。
この手では意味を成さないと気付いていても、触れることは止められない。

「これじゃぁまるでヤキモチだ」

くしゃりと風に靡いた髪を掻き混ぜて、笑みを浮かべるとロキは小さな溜息を吐き出した。
わかっていても、その想いをどうにかすることは出来なくて。
涙を止める術を持っていても、行動することが憚られる。
引き寄せた腕の中で躊躇う様子にもどかしさを感じながら、今はまだこのままでいたいと強く想った。

もしも、特別な感情のカタチに気付いてしまったとして切ないまでに深く惹かれてしまったとしたら。



動き出すのは誰?


***
`01`の心情背景的なつもり。

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