『恋』というものはある種の魔法に近いものがある。
女の子は日に日に可愛くなっていく。
イベントと言うものは恐ろしい。
ふにゃりとした笑顔で大量の贈り物を受け取っている彼がその象徴のようだ。
そんなことをぼんやりと考えながら、からん、と飲みかけのジュースを混ぜる。
その様子に、ミラジェーンがにこやかに口を開いた。

「そういえば、今日ってバレンタインね」
「そうですね」
「ルーシィはあげないの?」

誰に、とは言わずに、そう問うとルーシィは、はた、と気付いたようににっこりと笑った。

「ちゃぁんと、ミラさんの分もありますよ!」

はい、と両手で渡された小さな包みはとても可愛らしい。

「ありがとう」

違うんだけどな、と思いながらもミラジェーンは可愛らしいリボンが添えられている包みを受け取り、代わりに用意していたピンクの小箱を手渡す。
そして、先ほどから度々向けられる視線の先へ眼をやって苦笑した。

「ルーシィは、ロキにはあげないの?」
「えー…ロキは、他の子がくれるからいいかなって」
「でもさっきからなんだか浮かない顔してるわよ?」

バレンタインなのに、と付け足すと、ルーシィはほんのりと頬を染めて俯く。

「でも、あんまりたくさん貰ってもロキだって困るかなって」

信じていないわけではない。
けれど、愛されているという絶対の自信がない所為か。
時々とても不安になる。
特に、女性に囲まれている彼を見ていると。

「僕はルーシィのだけでいいよ」

不意に頭上から穏やかな声が降ってきた。

「ロキ!」

驚いて見上げると彼はにっこりと微笑んで横へ座る。

「あ、あんた今の聞いて…」
「うん?あ、ミラ、コーヒーをくれるかな」

焦るルーシィを他所に平然と注文するロキ。
はいはい、と困ったように笑うとミラジェーンはカウンターの奥へ入って行った。

「はい、ルーシィ」

ふわっ、と手渡されたのは小さなブーケ。

「バレンタインだから」
「…うん」

そうね、なんて曖昧に答えるとふにゃりと笑ってブーケを受け取った手に口付けをひとつ。

「本当にわかってる?」
「え?」
「バレンタインって言うのはね、男女の愛の誓いの日とされているんだよ?」

言葉を頭の中で繰り返して、漸く意味を理解した。
同時に、かぁぁ、と頬を上気させて、ロキから視線を外す。

「つまり、恋人たちの日だね」

逸らされた横顔をにこやかに見つめながら片手に頬を乗せてくすくす、と笑うロキは心底意地が悪いと思った。

「…何が言いたいの?」

横目でじろり、と視線をやったところで怯むわけもなく。
頬に集まっている熱は引かない。

「うん、デートしよう」

ロキは、カタン、と席を立つと、そのままルーシィの腕を引いた。

「ねぇ、僕には君だけでいいんだよ?」

ほら、と両手を広げてみれば、不思議なことに先ほど受け取っていた贈り物はひとつもなかった。

「……し、仕方ないわね」

耳まで真っ赤に染めて一言。
そうして彼の手を取って、イベントに彩られた街中で甘い一日を…―――。


fin.
***
Happy Valentine`s day*

*2011.02.14.*

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