掴みかけた望み。
零れ落ちた想い。
積み重なっていく思慕の欠片。
降り積もっていく願意の粒子。
小さく零した吐息に乗せて神秘的な光を放っている月を見上げる。
縋るように片手を翳して目を細めれば―――ぼんやりとした意識が急激に戻された。

「ナ、ツ…―――っ?」

ふわり、と靡く桜色が視界の端に映って。
止まった呼吸と同時に心臓が跳ね上がる。
静まり返った部屋に響く微かな音は胸の鼓動で掻き消されて。
身動ぎひとつせずに目を見張れば、軽やかな仕草で当然のように窓を飛び越えるナツ。

「ルーシィ」

じんわりと額に汗を浮かべて。
乱れた呼吸を小さく整えながら零す声を―――夢現で聴いた。
眉根に皺を寄せて。
呼ばれる名前は、まるで自分のものではないようで。
訝しげな視線を投げるその姿はどこか、いつもと様子が違って見える。

(会いたい…って思ったから―――?)

思い当る感情に仄かに頬を染めて。
火照る熱を誤魔化すように意識を目の前から逸らした。

「う…あ…な、なん…で?」
「あん?なんでって―――…顔見たくなったんだよ」

不意にぐらり、と身体が傾いて。
引き寄せられる重力に沿って温かな腕に閉じ込められる。

「ナ、ツ…?」

ぽすん、と軽やかな音と共に広がる体温。
微かに漏れる吐息に混ざり合う安堵の息。
互いの想いが交差して融け合う温い空間。

「―――やっと、捕まえた」

低く掠れた声が耳元で響いて。
ぎゅぅ、と確かめるように抱き締める腕に力が込められた。
それだけが真実で、渦巻く感情の答え。

ゆらゆらと浮かんでは消える想い。
ふわふわと揺らいではざわめく心。
ひらひらと落ちては流れゆく夢幻。
きらきらと融けては輝く時の狭間。

過った不安を掻き消して。
悩んだ想いを振り払って。
戸惑う感情を打ち消して。
溢れる心に惹かれるままに呼び合って―――求め合う。
伝わる温度と想いが重なり合った。


fin.
***
こうふう-せいげつ:光風霽月
心がさっぱりと澄み切ってわだかまりがなく、さわやかなことの形容。日の光の中を吹き渡るさわやかな風と、雨上がりの澄み切った空の月の意から。また、世の中がよく治まっていることの形容に用いられることもある。▽「霽」は晴れる意。

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