柔らかな感触がゆっくりと押し当てられて。
ぎこちなく離れて行く様子を間近で眺めながら止まったままの息を静かに吐き出す。
「―――…え?」
目の前の現実を確かめるように眼を見開いて。
視界の先で揺れる桜色をじっと見つめて、触れた唇へ手を当てた。
濡れた身体は熱に冒されたように体温を上げて。
ぎゅぅ、と強く触れ合う肌から伝わる温度はどちらの熱かもうわからない。
「ナ、ツ…?」
困惑したまま呼ぶ声は震えて響いて。
泣きそうに掠れた音は不安ごと掻き消される。
「いいからちょっと黙ってろ」
抱かれた身体に伝わる熱も擦り寄せるように絡まる桜色も全部。
隙間なく埋める距離が現実感を唯只管に突きつけた。
いつもよりもずっと大人びた仕草で触れる掌。
混ざり合う熱が肌を伝って鼓動に響く。
ちくしょー、と低く零れた言葉がナツ自身の変化をそのままに伝えた。
fin.
***
ちゅーさせたくなっただけ。それだけです。
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